桜花賞馬とオークス馬の二強対決 - 1997年秋華賞

秋華賞が初めて行われたのは1996年。それまでは春の桜花賞、オークスに加え秋のエリザベス女王杯が牝馬三冠最後のレースと実施されていましたが、この年からエリザベス女王杯が古馬に開放されてことにより、3歳牝馬三冠の最終戦として新たに位置づけられたのがこの秋華賞でした。これにより、これまで芝2400mで行われていた牝馬三冠の最終戦が400m短い芝2000mでの実施と変更されました。

個人的にはこの変更は牡馬三冠にはない、牝馬三冠ならではの魅力を作り出したと思います。

それは、1600mの桜花賞を勝ったマイル適性の高い馬と、2400mのオークスを勝った、いわゆるクラシックディスタンスを得意とする馬が、ライバルとしてどちらも守備範囲となり得るその中間の距離で三冠最終戦を争うケースがあるということです。その代表例のひとつが、1997年の秋華賞におけるキョウエイマーチとメジロドーベルのマッチアップです。

今回はこのレースを振り返ってみたいと思います。

2頭のうち、先に頭角を表したのはメジロドーベルでした。

メジロドーベルは1991年の宝塚記念馬で、現役時代高い人気を誇ったメジロライアンの初年度産駒。3歳(旧馬齢表記)の夏、当時はまだ右周りだった新潟芝1000mの新馬戦で3馬身差の勝利をおさめると、新潟3歳ステークスを挟んでサフラン賞といちょうSを2連勝。この2連勝がいずれも後続に2馬身半の差をつける快勝であったこと、いちょうSの直近2年の勝ち馬がヤマニンパラダイス、エアグルーヴといずれも後にGⅠを勝っていたこともあってか、メジロドーベルは一躍暮れのGⅠ・阪神3歳牝馬Sの有力候補に躍り出ました。

その阪神3歳牝馬Sは、一番人気のシーキングザパールが4角手前で早々に手ごたえが悪くなる中、メジロドーベルはその外を、余裕をもって位置を上げながら直線に向き、その手応え通りの力強い末脚を直線でも発揮。2着のシーズプリンセスに2馬身差をつける快勝で見事3歳牝馬女王の座を勝ち取りました。

父がメジロライアン、母の父がパーソロンという距離が伸びてもドンと来いという血統背景もあり、翌年の牝馬クラシック、とりわけオークスはこの馬が中心になることをこの時点で予感する人も多かったのではないでしょうか。

一方のキョウエイマーチはメジロドーベルがGⅠを勝つ前日の11月30日に阪神競馬場のダート1200mの新馬戦でデビュー。このレースは後の菊花賞馬マチカネフクキタルも出走していたのですが、そんな相手を向こうに回してキョウエイマーチは圧巻のスピードを披露。逃げて直線に向くと、後続とグングングングン差を広げ、終わってみれば1.7秒差の大差勝ち。この勝ちっぷりは競馬ファンに衝撃を与えました。

その後のキョウエイマーチは、2戦目の千両賞こそ3着に敗れたものの、続く寒梅賞、エルフィンSと連勝し、当然のようにクラシック戦線に乗ってきました。

キョウエイマーチの魅力は何と言ってもそのスピード。逃げてもしっかりと直線でも伸びる末脚で「テン良し、中良し、終い良し」を体現する勝ち方は、マイラーとしての高い資質を感じさせる勝ち方でした。

この2頭が初めて相まみえたのが牝馬三冠の初戦・桜花賞。

この桜花賞では、前哨戦のチューリップ賞で折り合い難を見せて3着に敗れたメジロドーベルに対し、報知杯4歳牝馬特別で阪神3歳牝馬S2着のシーズプリンセスに7馬身差の圧勝劇を演じたキョウエイマーチが人気で上回り、単勝オッズ2.6倍の1番人気に支持されました。

花散らしの雨が降る中、不良馬場で行われた桜花賞は、当時のおにぎり型のコースで行われる阪神芝1600mでは相当に不利とされる大外枠から、そのスピードを生かし難なく2番手につけたキョウエイマーチが、4角出口で逃げていたミニスカートを捕まえると、重馬場をものともしない力強い末脚、4角手前から外を回ってじわじわと差を詰めていたメジロドーベルとの差をさらに広げていきました。

終わってみれば、2着のメジロドーベルに4馬身の差をつける圧勝ともいえる内容。マイルが舞台のスピード比べなら、同世代の牝馬の最上位であることを証明しました。

この圧勝が評価されたのか、スピードを生かして逃げるキョウエイマーチにとって不安がぬぐい切れない東京芝2400mで行われるオークスでもこの馬が1番人気に支持されました。

レースはスタート直後からキョウエイマーチが逃げる展開。道中は軽快に逃げるというよりは距離を意識してスタミナを温存する溜め逃げという印象で進んでいきました。一方のメジロドーベルは、中団やや後方で末脚を溜めるレース。馬群が密集したまま直線に向くと、重馬場で行われたタフな馬場でスタミナを使い切った馬から次々と脱落していく展開になりました。逃げていたキョウエイマーチは早々に沈んでいったのに対し、メジロドーベルは脚を溜めていたこともあって最後まで伸び脚が衰えることなく、力強い末脚で突き抜けると、2着のナナヨーウイングに2馬身半差をつける快勝を見せました。

7着のナイトクルーズ以降は走破タイムが2分30秒台になるタフな消耗戦となったレースでもゴールまで衰えを見せなかった末脚は、メジロドーベルの豊富なスタミナを証明するレースだったと思います。

スピードに優れたキョウエイマーチとスタミナ豊富なメジロドーベル。

1勝1敗となったこの2頭の決着は、秋の京都芝2000m、秋華賞に持ち越されることとなります。

ローズSで2000mの距離を克服し、NHKマイルCの勝ち馬シーキングザパールに勝利したキョウエイマーチ、秋華賞のステップレースとしては異例ともいえるオールカマーで古馬を撃破したメジロドーベル。2頭とも中身の濃いレースで秋初戦を制したことで、秋華賞の一騎打ちムードはさらに高まっていきました。

迎えた牝馬三冠の最終決戦・秋華賞は、1番人気のメジロドーベルの単勝オッズが1.7倍、2番人気のキョウエイマーの単勝オッズが3.9倍でそれに次ぐ3番人気のメイプルシロップが単勝オッズ10.0倍と、レースの焦点は「この2頭のどちらが勝つのか?」と言った様相。

レースは忘れな草賞の勝ち馬・ナイトクルーズがキョウエイマーチの機先を制し積極果敢に逃げの手に出ます。キョウエイマーチは無理に競りかけず2番手からの競馬。オークスとは打って変わって馬群が縦長に伸びるレースで、メジロドーベルは中段馬群の一番後ろの位置を追走していました。

3角過ぎの坂の下り、軽快に逃げていたナイトクルーズと2番手を追走していたキョウエイマーチとの差がじわりじわりと迫っていく中、中団を追走していたメジロドーベルが大外を一気に捲りながら上がっていきます。

4角の出口。キョウエイマーチがナイトクルーズを交わして先頭に立っていた時、メジロドーベルはそこから1馬身半から2馬身の差まで詰め寄っていました。

必死に突き放そうとするキョウエイマーチ、必死に詰めようとするメジロドーベル。直線に入ってからは2頭が徐々に後続と差をつけていき、レース前に多くの人が予想したように一騎打ちの展開になりました。

残り200mを示すハロン棒までは、キョウエイマーチが直線入り口の時点でつけていた1馬身半程度の差を維持し、さすがの力を見せていましたが、この辺りが限界だったのか、そこからは外を行くメジロドーベルの脚色が勝っていました。残り100mあたりでメジロドーベルが先頭に躍り出ると、そこからは引き離す一方で最終的にはキョウエイマーチに2馬身半差をつけ2頭の対決に決着をつけました。

その後の2頭は、メジロドーベルが翌年からエリザベス女王杯を2連覇するなど中長距離路線で活躍しました。キョウエイマーチはメジロドーベルとは対照的に秋華賞以降は1600mを超える距離のレースを使われることはなく、重賞2勝、地方交流GⅠを含むGⅠで2着2回と長きにわたり短距離~マイル路線で芝・ダート問わず長く活躍しました。

同世代でも古馬になってからは別路線を歩む2頭がそれぞれ対応可能な距離で戦う最後の舞台。秋華賞にはそういった情緒があると思います。

写真:かず

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