[スプリンターズS]バクシンオー、カナロアに続く、史上3頭目となるスプリンターズS連覇。偉大なる名スプリンター・レッドファルクスを振り返る。

私の好きな曲に「真夏のピークが去った」という一節がある。スプリンターズSの頃には、例年、真夏のピークが去っているように思う。涼しい風を感じつつ、長かった夏もようやく落ち着いてきたのかなという、嬉しい気持ちと、どこか物足りない気持ちとが入り混じってしまう。

しかしそんな物憂げな気持ちにも浸ってはいられない。競馬のシーズンは、これからが本番とも言える。
うだるような暑さとともに夏のローカル開催が過ぎ去ると、今度は秋の訪れを感じさせる最終週の中山に、夏の暑さよりもはるかに“熱い”シーズンの開幕が告げられる。

電撃6ハロン スプリンターズS

中山芝1200mで行われる秋のスプリント王者決定戦は、時間にしてわずか1分と少しで雌雄を決する瞬き厳禁のGⅠだ。スプリンターズSは1967年に中央競馬唯一のスプリント重賞として創設され、GⅢ、GⅡと段階的な昇格を経て、1990年にはついにGⅠに昇格。現在ではそのレースレーティングが世界のトップ100に入る著名なレースに上り詰め、過去には2005年に香港のサイレントウィットネス、翌2006年はオーストラリアのテイクオーバーターゲット、そして2010年に香港のウルトラファンタジーらが優勝するなど、海外調教馬の参戦もそう珍しくない。

スプリント路線は主役の入れ替わりが激しいのが特徴だ。
年にいくつもGⅠが行われる中長距離路線とは異なり、GⅠとして組まれているのが春の高松宮記念、秋のスプリンターズSの2走だけであるため、スプリントGⅠを複数勝利をすることはなかなか難しい。また「最速」を決めるこの路線においてはスピードという能力が非常に重要なファクターであるが、その円熟期はそう長くは続かない。そのかわりに活きの良い「若い世代」がすぐに台頭し、サイクルの早い世代交代が完成しているように思える。

そのサイクルに抗って『同一スプリントGⅠ連覇』という快挙を達成した馬が、2021年現在、歴史上4頭だけ存在している。

高松宮記念の連覇は史上唯一、キンサシャノキセキのみが達成している大記録。スプリンターズS連覇を成し遂げたのはサクラバクシンオー、ロードカナロア、そして直近で記録しているのがレッドファルクスである。

レッドファルクスの1度目の制覇は2016年。

7月のCBC賞で5歳にして重賞初制覇を飾ると、陣営はサマースプリントシリーズを歩まずにスプリンターズS直行を決断。同年の高松宮記念の覇者ビッグアーサー、同2着のミッキーアイルに続く3番人気で出走すると、終始、先行馬群の大外を手応えよく追走して直線でも鋭く伸び、ゴール寸前でミッキーアイルをわずかに捉えてGⅠ初出走・初制覇を記録。同年のJRA賞最優秀短距離馬の座こそ、春秋スプリントGⅠ2着、マイルCS優勝の実績をあげたミッキーアイルに譲ったものの、スプリント界に新たな王者として名乗りを挙げることとなった。

翌年、高松宮記念では雨の中、前で粘ったセイウンコウセイをとらえ切れず3着。
続く京王杯スプリングCは勝利したものの、さらに距離を伸ばして挑戦した安田記念は前走で負かしていたサトノアラジンの前に僅差の3着に敗れた。悔しい上半期を過ごしたレッドファルクスは、連覇のかかるスプリンターズSに、その安田記念から直行というローテーションを選択。4ヶ月ぶりの休み明けにはなったが、堂々の1番人気に支持を受ける。

前年とは異なり、中段よりやや後ろのポジションを進んで最後の直線を迎えると、外目の馬群をこじ開けて進路を確保し、粘る各馬を猛追。全体2位タイとなる上がり3ハロン33.0を脚を繰り出して、最内を通ったレッツゴードンキ、逃げ粘ったワンスインナムーンの牝馬2頭を交わし切り、史上3頭目のスプリンターズS連覇を達成した。

歴代の多くの覇者たちが挑んでは、「若い世代」によって跳ね返されてきたスプリンターズS連覇という厚い壁。

スプリント界史上最強との呼び声も高いサクラバクシンオー、ロードカナロアの二大巨塔のみが保持していた大記録であったが、それに肩を並べたレッドファルクスもまた、偉大なスプリンターだったと言えるはずだ。

史上初となるスプリンターズSの三連覇を目指し翌年も現役を続行したレッドファルクスは、2018年のスプリンターズSで前年に退けていたファインニードルの堂々たる競馬の前に敗れ去っている。次の時代を担う王者のバトンを繋いで戦いの場を去っていくその後ろ姿には、絶対王者のまま勇ましく現役を引退していったサクラバクシンオーやロードカナロアの威厳とは形の違った王者の姿があったように思う。

引退してから、サクラバクシンオーはグランプリボスやショウナンカンプらを、ロードカナロアはアーモンドアイやサートゥルナーリアらを輩出し、種牡馬として成功を収めている。サクラバクシンオーは母父として、キタサンブラックも輩出した。このことからも「種牡馬レッドファルクス」への期待は大きい。それはファーストシーズンから社台スタリオンステーションで供用されていることや、種牡馬入りしてから2021年までの3年間の種付け頭数が300頭を超えていることからも明らかだと言える。

レッドファルクス産駒が我々の目の前を駆け抜けるのは早ければ2022年の夏。彼がまた、次なる「若い世代」として王者の座を脅かす日もそう遠くはないかもしれない。

写真:かぼす

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