[重賞回顧]惜敗続きの才女が、念願の重賞初制覇~2021年・富士ステークス~

2020年からGⅡに昇格した富士ステークスは、関東で行なわれるマイルチャンピオンシップの前哨戦。過去には、エイシンアポロンが当レースと本番を連勝し、トウカイポイント、ダノンシャーク、ペルシアンナイトが、ここをステップに本番を制している。

2021年の出走馬は17頭。そのうちGI馬は3頭と、好メンバーが顔を揃えた。ただ、オッズを見るとほぼ3強といった格好で、GI馬たちを差し置き1番人気に推されたのは、3歳牝馬のソングラインだった。

デビュー2戦目で初勝利を挙げた後、年明けの紅梅Sも連勝。休み明けの桜花賞は15着と崩れたものの、NHKマイルカップでは巻き返し、シュネルマイスターと大接戦の末、2着と健闘した。今回は、関屋記念3着以来2ヶ月ぶりの実戦。GIで好走した舞台に戻る点。そのとき接戦を演じたシュネルマイスターが、2週間前に毎日王冠も勝利した点などを評価され、若き牝馬に大きな期待が集まった。

僅差の2番人気に、同じく3歳で牡馬のダノンザキッド。昨年6月の新馬戦を完勝し、東スポ杯2歳ステークス、ホープフルSと3連勝。一気に、GI制覇を成し遂げた。ところが、順調と思われた2歳シーズンから一転。弥生賞で3着と初黒星を喫した後に挑んだ皐月賞で15着と大敗し、その後、ダービーを前に骨折が判明。その後は休養に入っていた。今回は半年ぶりの実戦となるものの、GI勝ちの実績は上位。川田騎手が継続騎乗することもあり、大きな注目を集めていた。

3番人気に続いたのが、4歳牝馬のロータスランド。3歳時に長期の休養が2度あり、ここまでのキャリアはわずか10戦ではあるものの、この夏、米子ステークスと関屋記念を制し、サマーマイルチャンピオンに輝いた。これまで連対を外したのは、デビュー3戦目の阪神ジュベナイルフィリーズと2走前の中京記念のみで、安定感は魅力。さらに、1600mは6戦4勝2着1回と得意にしており、こちらも多くの支持を集めていた。

そして、やや離れた4番人気に、2018年のダービー馬ワグネリアン。ダービー後の神戸新聞杯から勝利はないものの、6歳秋でキャリアはまだ15戦と大事に使われている。この勝負服に友道厩舎の管理馬といえば、2週間前の京都大賞典で5年ぶりの復活星を挙げたマカヒキを思い出すところ。最も大きな注目を集めたのは、ある意味でこの馬だったかもしれない。

レース概況

ゲートが開くとタイムトゥヘヴンが出遅れ、サトノウィザード、ソングライン、ダーリントンホールらも、ダッシュがつかなかった。

ハナを切ったのはロータスランドで、2番手にバスラットレオンとボンセルヴィーソが並走。その後ろに、フォルコメンとラウダシオン。さらにソーグリッタリングがポジションを上げ、2番手に取り付く。

前半600mの通過は、35秒3とスロー。この時点で、ソングラインは中団まで巻き返し、ダノンザキッドやワグネリアンといった上位人気馬たちと、ほぼ同じ位置でレースを進めていた。

先頭から最後方までは、およそ10馬身。やや離れた最後方を追走するサトノウィザード以外の15頭はほぼ一団。ペースもほとんど上がらず、1000mを58秒7で通過し、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、逃げるロータスランドがボンセルヴィーソとソーグリッタリングを坂の途中で振り切り、リードを2馬身に広げ、坂を駆け上がる。しかし、馬場の中央から末脚を伸ばしたソングラインが、残り150mでそれをかわし単独先頭に立った

そのままリードを広げ、押し切るように思われたソングラインだったが、最後方に構えていたサトノウィザードが、大外から一気に追込み、体半分差まで迫ってくる。

それでも、やや余裕を持ってこの追撃を凌いだソングラインが、見事1着でゴールイン。クビ差まで迫ったサトノウィザードが2着。2馬身差の3着に、こちらも後方から追い込んだタイムトゥヘヴンが入った。

良馬場の勝ちタイムは、1分33秒2。ソングラインが実績のあるコースで巻き返し、念願の重賞タイトルを手にした。

各馬短評

1着 ソングライン

立ち後れたものの、キズナ産駒の牝馬らしい切れ味を武器に快勝。勝ちきれないレースが2戦続いたものの、2度目の古馬混合戦で重賞初制覇を達成した。池添騎手といえば、古くはスイープトウショウやデュランダル、ドリームジャーニー。最近では、インディチャンプやグランアレグリアの代打騎乗など、瞬発力に秀でた馬とのコンビで、GIを数多く制している。

次走がマイルチャンピオンシップとなると、キャリアで1度しか経験していない右回り。そして、キャリアで唯一大敗した阪神芝1600mでのレースとなる。ただ、当時は出遅れから一気に上がってきたメイケイエールと接触し、そこでリズムを大きく崩したことが敗因で、ノーカウントともいえる内容だった。

今回は斤量にもやや恵まれ、タイムが平凡だったこともあり、レース内容すべてを大きく評価することはできない。とはいえ、スタートで立ち後れながら、スローな流れを差し切った点は大きい。過去、3歳の牝馬がマイルチャンピオンシップを制した例はなく、スペシャリストたちにどこまで実力が通用するか楽しみになった。

2着 サトノウィザード

スローペースにもかかわらず、最後方から追い込んであわやの2着。松田厩舎が定年のため2月で解散し、春から美浦・宮田敬介厩舎の所属となったが、これで転厩後2戦1勝2着1回となった。

デビューからおよそ2年間、480kg~490kg台で変わらなかった馬体重は、この1年で20kgも成長。極端な脚質ゆえ展開には左右されるが、前走も今回も、スローの流れを離れた最後方、しかも馬場の大外から追い込んで連対している。直線の長いコースでは、常に警戒したい存在。

3着 タイムトゥヘヴン

2着馬と同じ距離短縮のロードカナロア産駒で、こちらも後方2番手から追い込んだ。

立ち後れた馬の中でもとりわけ大きく出遅れたため、これがなければ、上位2頭とはもう少し際どい差だったかもしれない。

スタートは良いほうだが、ここまで1勝のみで、重賞で2着2回と勝ち味に遅いタイプ。セントライト記念は、前が詰まってほとんどレースになっていなかったため、次走が試金石となるだろうか。

レース総評

前半800mが47秒0、後半800mが46秒2と、後傾ラップのスロー。ただ、そういった流れでも、スタートに失敗した馬たちが、道中巻き返すか後方からの競馬に徹し、結果、上位を独占した。

上位人気に推されたとはいえ、ダノンザキッドやワグネリアンは、ともに2000m以上のGIを制した馬。そう考えると、東京のマイルに適性がある馬たちが、力を出したレースといえるだろうか。

ただ、前日の雨の影響があったとしてもタイム自体は平凡で、レース内容を大きく評価することはできない。上位入線馬にとっては次走が試金石となり、敗れた馬たちにとっては次走がそれぞれの得意距離。例えば1800mや2000mに出走してきた際に、メンバー次第では見直せるかもしれない。

写真:@berry29051387

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