[重賞回顧]荒波を乗り越えた先にある絶景へ…。斤量を克服したヴェルトライゼンデが、GI獲りへまた一歩前進!~2023年・日経新春杯~

日経新春杯にハンデといえば、「流星の貴公子」テンポイントが見舞われた悲劇と、切っても切れない関係にある。その後、ハンデ戦の斤量は大きく見直されたが、あれから45年が経過した2023年。ルールが改定され、ハンデ戦であるかどうかにかかわらず、基本的には負担重量が1kg増えることになった。

日曜小倉のメイン門司Sでは、60kgを背負う馬が2頭出走。60kg以上を背負う馬が、平地のレースに複数出走するのは、2003年の欅S以来20年ぶり(60kgシンコウスプレンダと61kgマンボツイスト)で、日経新春杯にも99年のレースを勝利したメジロブライト(59.5kg)以来24年ぶりに、59kgを背負う実績馬が出走してきた。

その重い斤量が懸念されたか、今回のメンバーでは実績断然といっても過言ではないヴェルトライゼンデに人気が集中することはなく、5頭が単勝10倍を切る混戦模様。そのうちの3頭に人気は分散し、最終的に6歳馬ロバートソンキーが1番人気に推された。

3歳時に出走した神戸新聞杯ではヴェルトライゼンデにクビ差及ばなかったものの、続く菊花賞と、2年ぶりの再戦となった前走のオールカマーでは先着を果たした本馬。今回はそれ以来3ヶ月半ぶりの実戦となるが、中京コースは3戦2勝3着1回と得意にしており、デビュー16年目の伊藤工真騎手とともに、念願の初重賞制覇を目指していた。

同じ3.8倍ながら、票数の差で2番人気となったのがヴェルトライゼンデ。ホープフルSと日本ダービーで2、3着に好走した実績があり、古馬になってからの活躍が期待されるも、4歳時に屈腱炎を発症。長期の休養を余儀なくされた。それでも、休み明けの鳴尾記念で重賞初制覇を飾ると、前走のジャパンCでも3着に好走。トップハンデの59kgを背負うのもGIで度々好走しているからで、今回は結果と内容の両方が問われる一戦だった。

これら2頭に続いたのが、出走14頭中、唯一の条件馬ヴェローナシチー。ここまでわずか1勝ながら安定した走りを披露し、重賞やオープンでも2、3着に好走した実績がある。また、中京コースも3戦2着2回と得意で、格上挑戦ながら、待望の2勝目と重賞初制覇を同時に成し遂げるか注目を集めていた。

以下、2022年の青葉賞を制し、続くダービーでも5着に好走したプラダリア。2022年の神戸新聞杯で12番人気ながら2着に激走し、ヴェローナシチーに先着したヤマニンゼストの順に人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くとダンディズムが出遅れ、同枠のモズナガレボシは躓いて落馬寸前に。なんとか持ち堪えたものの、大きく離れた最後方からの競馬を余儀なくされた。

一方、前はキングオブドラゴンが逃げようとするところ、アフリカンゴールドが外からかわして先頭へ。ヴェローナシチーが1馬身差でこれを追い、やや押っつけながらキングオブドラゴンが3番手を追走。以下、プライドランド、ヴェルトライゼンデ、プラダリア、ハヤヤッコの順で続き、ヤマニンゼストはちょうど中団8番手。人気のロバートソンキーは、その外に位置していた。

前半1000mは1分2秒1の遅い流れで、先頭から最後方まではおよそ15馬身差の隊列。その後、勝負所の3、4コーナー中間に差しかかると、モズナガレボシ以外の13頭は8馬身ほどに凝縮。続く4コーナーで、イクスプロージョンが馬群の外から前に取り付こうとする中、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、馬群が内、中、外に分かれ、内ではキングオブドラゴンがアフリカンゴールドに並びかけるところ、ヤマニンゼストがこれら2頭に接近。一方、外はヴェローナシチーが先頭に躍り出ようとするも伸びを欠き、ヴェルトライゼンデとプラダリアがこれをかわし、内の2頭を追いかける。

そして、直線半ばからは馬場の中央に進路をとったロバートソンキーも含め5頭が上位争いを演じ、最後はゴール前でグイッと伸びたヴェルトライゼンデがキングオブドラゴンをかわして先頭でゴールイン。クビ差の2着にキングオブドラゴンが入り、同じくクビ差でプラダリアが続いた。

稍重馬場の勝ち時計は2分14秒2。前走ジャパンCで惜敗したヴェルトライゼンデが2つ目の重賞タイトルを獲得。短期免許で来日中のD・イーガン騎手は、これがJRAの重賞初制覇となった。

各馬短評

1着 ヴェルトライゼンデ

終始、先団の絶好位をキープ。手応えの割に直線でモタついたようにもみえたが、イーガン騎手によると、調教でソラを使うことがわかり最後の最後まで抜け出さないようにしたとのこと。その点と重い斤量を考慮すれば、着差以上に強い内容だった。

ステイゴールド系種牡馬の産駒といえば、小回りや右回り、とりわけ中山に強い印象だが、今回を含め中京と東京で[2-1-2-0/5]の本馬には当てはまらない。

春におこなわれる2000m以上の大レースはすべて右回りだが、それを克服すればGIを勝つ力は十分備えている。また、6歳馬でも長期の休養をはさんでいるだけに消耗は少なく、今後どういったローテーションを歩むか注目される。

2着 キングオブドラゴン

前走とは逆にアフリカンゴールドが逃げ、こちらは2番手からのレース。道中も坂井瑠星騎手が軽く押っつけながら追走し、残り800mからは追い通し。それでも、4コーナーでハミをとると直線しぶとく脚を伸ばし、あわやの場面を作った。

前走のアルゼンチン共和国杯は、快調に逃げていたものの直線に入ってすぐ内ラチに激突。調教再審査となってしまったが、さすがはトップトレーナー矢作調教師の管理馬。再び左回りのレースに出走してきたが、失敗を繰り返すことはなかった。

左回りというよりも中京巧者で、勝利こそないが、今回も含め[0-5-1-1/7]と得意舞台。2022年の鳴尾記念でもヴェルトライゼンデから0秒5差の5着と健闘しており、距離は短いかもしれないが、再び鳴尾記念に出走してきた際は、少なくとも相手に加えたい存在。

3着 プラダリア

未勝利脱出からいきなり青葉賞を制し、ダービーでも5着と健闘。新星誕生の予感がしたが、秋2戦はあまり良いところがなかった。

今回は外目の7枠を引いたが、この週の中京は直線でどこを通っても大きく変わらず。終始、外を回らされる格好となったプラダリアにとっては不利な展開だったが、それでも上がり最速でクビ、クビ差の3着に好走した点は立派の一言に尽きる。

父ディープインパクト×母父クロフネの組み合わせはニックスで、レイパパレ、ステファノス、シャイニングレイ、ベストアクター、カワキタエンカなど、重賞勝ち馬を多数輩出。また、レイパパレが2021年に勝利した大阪杯は母父にヴァイスリージェント系種牡馬を持つ馬が強く、こちらも大阪杯に出走することがあれば相手には組み込んでおきたい。

レース総評

前半1000mが1分2秒1。12秒6をはさんで、同後半が59秒5=2分14秒2。後傾ラップとなったが、それでも中京の中距離戦らしくレース上がりは35秒を上回り、さらに馬場の悪化も相まってタフな競馬となった。

その点を考慮すると、まずまずのレースレベル。少なくとも、重い斤量を背負った上でソラを使わないよう最後の最後まで抜け出しを我慢し勝利したヴェルトライゼンデにとっては、上々の始動戦だった。

また、ステイゴールド系種牡馬の産駒とはイメージが異なると前述したが、斤量に強い点は共通。59kgを背負って芝の平地重賞を制したのは、2012年の京都大賞典を勝利したローズキングダム以来の快挙だった。

ヴェルトライゼンデの馬名の由来は、ドイツ語で「世界旅行者」だそう。競走生活も実働5年目に入り、今はまだ長い航海の真っ只中といえるが、かつては屈腱炎という荒波に見舞われるも克服し、今回は59kgの斤量もクリアしてみせた。

他にも、右回りやソラを使うといった課題はあるものの、ビッグタイトルを勝ち取るだけの実力は十分。荒波を乗り越えた先にあるまだ見ぬ絶景へ、また一歩前進するような価値ある勝利だった。

写真:かぼす

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