[重賞回顧]兄の背中を追いかけて、札幌で示した新境地~2026年・エルムS~

札幌ダート1700mを舞台に行われるGIIIエルムS。
今年の出走は11頭ながら、オープン、重賞で好走歴のある馬が多く顔をそろえ、レベルの高い一戦が予想された。

人気を背負ったのはウェイワードアクト。鞍上は舟山瑠泉騎手だ。前走、函館競馬場のマリーンSを逃げ切った勢いそのままに、所属する田中博康厩舎の馬で重賞初制覇を目指す。しかし、このレースは逃げ馬との相性が決して良くない。過去10年でも、終始逃げる形で馬券圏内に残ったのはドリームキラリ、2017年3着、2018年2着が目立つ程度。追ってくる後続のプレッシャーに耐えられるかが、ひとつのポイントになる。

そのプレッシャーを与える存在になり得るのが、昨年のダート二冠馬ナチュラルライズだ。レースに行くと頭を上げ、とにかく前を目指そうとする前向きすぎる気性を見せるが、それだけ競走馬に大切な闘志を持っている馬とも言えるだろう。鞍上はもちろん、これまで手綱を取り続けてきた横山武史騎手。トップハンデ59kgも鍵になるが、果たしてどのようなレースを見せるのか。

兄の背中を追うルクソールカフェも注目の存在である。全兄カフェファラオはフェブラリーS連覇、マイルチャンピオンシップ南部杯を制した左回り巧者。ルクソールカフェ自身も、武蔵野Sで重賞タイトルを獲得している。その後は兄カフェファラオも経験した芝マイルGI、安田記念を使い、ここから夏競馬へ参戦。2歳時には勝てなかった札幌競馬場で、今度こそ勝利をつかめるだろうか。鞍上は前走から続いて岩田望来騎手が務める。

昨年の勝ち馬で札幌ダート巧者のペリエール、グリーンチャンネルCで60kgを背負いながら、今年の東海S勝ち馬マテンロウコマンドを完封したオメガギネス、ケンタッキーダービー5着の実績を持ち、帰国後もオープン2勝を挙げているテーオーパスワードもいる。展開を作るであろうウェイワードアクトに、どの馬が続くのか。そして、どこから仕掛けるのか。札幌ダート1700mらしい位置取りと動き出しが、見どころになりそうな一戦だ。

生ファンファーレに送られて、各馬はゆっくりとゲートインを進めていった。

レース概況

スタートはややばらついた。その中で、比較的スムーズにダッシュを決めたのがウェイワードアクトだった。舟山瑠泉騎手は迷わず手綱を動かし、前走マリーンと同じく先手を主張する。一方、横山武史騎手はナチュラルライズをなだめるように後方へ下げた。内から出ていたレヴォントゥレットをかわし、ウェイワードアクトが先頭で1コーナーへ入っていく。

2番手にはインのレヴォントゥレット。その外からヒルノハンブルクとペリエールが続き、3列目にはアクションプラン、テーオーパスワード、ヴァルツァーシャル、オメガギネスの4頭が並ぶ。後方にはルクソールカフェとテーオードレフォンが構え、ナチュラルライズは最後方で抑えられながら、まだ首を使って跳ねるような仕草を見せていた。

向こう正面に入ると、ウェイワードアクトの直後にヒルノハンブルクがつけ、ペリエールはその2頭を見る3番手で落ち着く。中団ではテーオーパスワードとオメガギネスが少しずつ位置を押し上げ、その前ではレヴォントゥレットが後退し始めていた。

レースが大きく動いたのは、前後の位置が入れ替わり始めた向こう正面である。岩田康誠騎手がオメガギネスの手綱を緩めると、馬は一気に前へ進出。逃げるウェイワードアクトをかわし、先頭へ躍り出る。前に立ったオメガギネスはすぐにインを確保したが、ウェイワードアクトも簡単には譲らない。ヒルノハンブルクもこれに食らいつき、先行勢の息は入りにくくなっていった。

レヴォントゥレットが下がってきたタイミングで、後方のルクソールカフェも動き出す。前にはテーオーパスワード、さらにペリエールを見ながら、岩田望来騎手は徐々に外へ進路を求めていった。内ラチ沿いを下がる馬をさばきながら、後方勢も3コーナーから4コーナーへかけて勝負態勢に入る。

1000m通過は59秒8。オメガギネスが早めに動いたことで、レースは先行勢にとって息の入らない消耗戦の色を濃くしていた。それでもコーナーでウェイワードアクトがもう一度盛り返す。その後ろで脚を溜めていたペリエールが仕掛け、さらにルクソールカフェ、テーオーパスワード、ヴァルツァーシャルも前を射程に入れて直線へ向かった。

直線入口でウェイワードアクトが粘り込みを図り、ヒルノハンブルクも前へ出ようとする。そこへ外からペリエールが迫り、さらにその外からルクソールカフェが勢いよく脚を伸ばしてきた。ばらけた馬群の外では、テーオーパスワードが少しずつ前との差を詰める。さらに最後方にいたナチュラルライズも、大外からじわじわと脚を伸ばしていた。

前年覇者ペリエールが先に抜け出しを図る。しかし、その連覇を阻んだのはルクソールカフェだった。小回りの札幌ダート1700mでもしっかり脚を使い、最後は1馬身半差をつけてゴール。武蔵野Sに続く重賞2勝目を挙げた。

ペリエールは前の馬たちがやり合う中で落ち着いて立ち回り、復活を感じさせる2着。テーオーパスワードは馬群を抜け出すまでに時間を要しながらも、最後まで脚を伸ばして3着に入った。そして最後方にいたはずのナチュラルライズが、トップハンデ59キロを背負いながら4着まで追い上げた。5着にも後方から伸びたヴァルツァーシャル。逃げたウェイワードアクトは、オメガギネスを再び交わし返すところまで抵抗した。そこで力を使い切る形にはなったが、人馬ともに見せ場十分の8着だった。

各馬短評

1着 ルクソールカフェ 岩田望来騎手

前走は安田記念。芝のマイルGIから、札幌ダート1700mのエルムSへ舞台を移しての勝利だった。

全兄カフェファラオも、堀宣行厩舎から安田記念に挑んだ馬である。この兄弟に芝マイルGIを試すあたりにも、厩舎の見立ての面白さがある。ワンターンの直線が長いコースではサウジCでも5着に好走し、安田記念も11着とはいえ、走破時計は1分32秒9。着順ほど内容が悪かったわけではない。

もっとも、兄カフェファラオがそうであったように、ルクソールカフェの本領もやはりダートにあったのだろう。今回は右回り、小回り、札幌ダート1700mという条件。得意条件とは言い切れない舞台だったはずだが、それでも実力で勝ち切ったように見える。

レースでは後方寄りからの競馬。レヴォントゥレットが下がってきたタイミングで後方インから外へ出し、前にテーオーパスワード、ペリエールを見る形で進出していった。そこから直線まで長く脚を使っており、実質的には800m近く脚を使うロングスパートだったと言って良いだろう。それを手前を替えず、右手前のまま走り切ったのだから、ここでは実力が一枚上手だった。

それでも、直線では前年覇者ペリエールのさらに外から脚を伸ばし、最後は1馬身半差をつけて抜け出した。武蔵野Sに続く重賞2勝目。左回りだけではなく、小回りの札幌でも戦えることを示した価値ある勝利だった。

この後は得意条件のマイルチャンピオンシップ南部杯、そして1周コースにはなるが左回りのチャンピオンズCも待っている。今回見せたロングスパートを武器に、秋の大勝負での快走にも期待したい。

2着 ペリエール 佐々木大輔騎手

昨年の覇者ペリエールが、連覇まであと一歩の走りを見せた。

昨年のエルムS勝利後は3走続けて2桁着順に終わっていたが、みやこSは不良馬場のハイペース戦。続くチャンピオンズC、フェブラリーSはいずれもGIで、相手関係も楽ではなかった。前走のオアシスSでは59kgを背負いながら4着に入り、十分に走れる姿を見せていた。

その中で迎えた、2戦2勝の札幌コース。巧者ぶりを発揮するには十分な舞台だったと言えるだろう。

大外11番枠からのスタートだったが、佐々木大輔騎手は無理に外を回し続けるのではなく、道中でロスを抑えながら立ち回った。逃げるウェイワードアクト、その後ろのヒルノハンブルクを見る3番手付近で落ち着き、オメガギネスが早めに動いて前が厳しくなる中でも、慌てずに脚を溜めていた。

勝負どころへ向かうまでの立ち回りも巧みだった。レヴォントゥレットが後退し、外からオメガギネスが位置を上げてきた場面で、佐々木騎手は空いた内のスペースにペリエールを潜り込ませる。そこでオメガギネスをやり過ごし、直線へ向くまでじっと我慢したことが、最後の伸びにつながった。

コーナーではいよいよ外へ持ち出し、ウェイワードアクトとヒルノハンブルクを交わして前へ。直線ではルクソールカフェとの末脚勝負になった。最後は相手の伸びが上回ったが、ペリエール自身も理想的に近いレース運びで力を出し切っている。3歳時から対戦しているオメガギネス、前走では斤量差もあったテーオーパスワードに先着しての2着。勝ったルクソールカフェの強さは認めつつも、昨年覇者として十分に力を示した内容だった。

勝利こそならなかったが、札幌ダート1700m巧者らしい綺麗なレース運びだった。
近走の着順だけを見れば復調途上にも映ったが、この舞台に戻って改めて地力を発揮している。

3歳時にはユニコーンSを制しており、もともと世代重賞を勝つだけの力を持っていた馬である。GIではもうひと押しが必要かもしれないが、オープンやGIIIならまだまだ存在感を示せるはずだ。秋はグリーンチャンネルC、武蔵野Sと、これまで走ってきたローテーションでもう一度勝利を期待したい。

3着 テーオーパスワード 松山弘平騎手

デビューから2戦2勝で挑んだケンタッキーダービーでは、現地で活躍する木村和士騎手とのコンビで5着に入ったテーオーパスワード。その後は4歳年明けまでの長い休養もあったが、昨夏のオープン、名古屋城Sを勝利。5歳になった今年も前走アハルテケSを制し、オープン戦2勝目を挙げて、重賞勝利も見える位置まで来ている。

前週は新潟で騎乗予定だった松山弘平騎手がケガから復帰し、この馬とのコンビで参戦。重賞初制覇を目指す一戦となった。

道中は中団で流れに乗り、オメガギネスが動いたタイミングでは前を見る形。ただ、勝負どころで外からルクソールカフェに並ばれたことで、先に勢いをつけて動いた馬たちを追いかける形になった。それでも、直線では最後まで脚を伸ばし、ペリエールに3/4馬身差まで迫っている。

結果こそ3着だが、ラスト200mでの伸びはやはり才能を感じさせるものだった。JRAのダート重賞に限れば、昨年参戦したシリウスSまで重賞はないため、タイトル獲得はもう少し先になるかもしれない。それでも、1600mから2000mまで対応できる馬であり、どこかでチャンスは巡ってくるはずだ。

4着 ナチュラルライズ 横山武史騎手

4歳世代の個性派、ナチュラルライズ。3歳時には、横山武史騎手ががっちり手綱を抑えているにもかかわらず、全速力でハナに立つほどの前向きさを見せていた。パワフルな走りで3歳ダート二冠を達成し、ジャパンダートクラシックでもナルカミの2着。確かな能力と前向きすぎる気性が、表裏一体となっている馬である。

騎乗し続ける横山武史騎手のこぶしは、いつもナチュラルライズの首に近い位置でしっかりと抑えられている。

東京大賞典では年長馬相手に逃げ切れず、年明け初戦のフェブラリーSでは、なんと後方3番手で末脚を溜める競馬を選択した。かしわ記念では大外枠ということもあり前に行く形となったが、前走の帝王賞でも最内枠から控える競馬を選んでいる。横山武史騎手が、“我慢すること”をナチュラルライズに教えているようにも見えた。

そして今回は、やや出遅れ気味だったこともあり、無理なく後方からのスタート。最後方でうるさい仕草を見せながらも、横山騎手は仕掛けどころを待った。前の馬たちが動き出したところでスパートを開始し、前3頭からは4馬身差があったものの、上がり3位の37秒6で伸びてきた。

今回のレースは、前にいた馬たちに厳しい展開だった。今までのナチュラルライズであれば、早めに力を使ってしまい、最後まで脚がもたなかったかもしれない。まだ気性面の課題は残るが、体力を温存できれば、その闘志はどの馬にも劣らない。

4着という着順以上に、差す競馬で上がってきた走りには収穫があった。
横山武史騎手とのコンビで、さらなる成長を見守りたい存在である。

8着 ウェイワードアクト 船山瑠泉騎手

夏は福島、新潟で騎乗する戸崎圭太騎手に代わり、舟山瑠泉騎手との新コンビでマリーンSを逃げ切ったウェイワードアクト。これでオープン競走は3勝目。重賞でもかきつばた記念の2着があり、エルムSでは所属する田中博康厩舎の馬で舟山騎手が重賞初制覇を目指す一戦として、1番人気に支持された。

しかし、レースでは楽に逃げられなかった。ナチュラルライズこそ後方にいたものの、序盤はヒルノハンブルク、向こう正面からはオメガギネス、さらにペリエール、ルクソールカフェ、テーオーパスワードら後続の馬たちが次々に迫ってくる苦しい展開になった。特に残り800m手前でオメガギネスにハナを奪われたことでペースが緩まず、逃げ馬にとってはいっそう厳しい流れになったはずだ。

それでも、舟山騎手は一旦ハナに行かせたオメガギネスを、もう一度抜き返してラストスパートへ向かった。逃げ切ってみせるという人馬の心意気が見られる走りだった。最後は逃げ馬が勝ち切りにくいエルムSの壁が立ちはだかったが、この経験を糧に、秋以降も全力で前に行く競馬を続けてほしい。

オープン昇級まで3着以下なしの安定感があり、左右の回りを問わず、逃げ、先行、差しのいずれの競馬も経験している。休み明けからしっかり走れるタイプでもあり、次走からいきなり巻き返しても驚けない存在だ。

レース総評

実力馬が揃った今年のエルムS。振り返ると、勝負のポイントは大きく3か所あった。

まずはスタートである。ウェイワードアクトは逃げる競馬を選び、一方で、前に行きたがるナチュラルライズは結果的に最後方待機の形となった。この時点で、逃げ馬ウェイワードアクトに対し、どの人馬がどこで勝負を仕掛けるのかが見どころとなった。

次に、オメガギネスが道中で動いた場面である。前にいたレヴォントゥレットが後退し、入れ替わるようにオメガギネスが逃げるウェイワードアクトへ挑んでいった。岩田康誠騎手が道中で抑えていた手綱を緩めると、一気に行き脚がつく。この動きに呼応するように、後方のテーオーパスワード、ルクソールカフェ、そして追い込みに挑んだナチュラルライズも動き出した。

そして最後が、直線の攻防だった。前でやり合っていた馬たちの動きを見ながら、まずペリエールが抜け出し、札幌巧者らしい立ち回りを見せる。しかし、その外から勢いよく伸びてきたのがルクソールカフェだった。外からのロングスパートで、決して楽な形ではなかったはずだが、ゴールまでブレーキをかけずに脚を伸ばし切った走りは、文字通り駆け抜けたという印象を残した。

また、道中で仕掛けた馬たちに一瞬置かれたように見えたテーオーパスワードも、直線に向いてからしっかり伸びている。コース適性の差こそあったかもしれないが、それでも能力でつかんだ3着に見えた。

トップハンデを背負いながら、これまでのレースに比べれば抑えて競馬ができたナチュラルライズにも収穫があった。勝ち切るにはハンデ差や精神面の課題はまだ残るが、それでも脚の使いどころまで我慢できたことは大きい。春のレースを経験してきた成果が、少しずつ形になってきたと言っていいだろう。

JRAの古馬ダート重賞は、9月のシリウスSまでひと休みとなる。秋のJRA重賞へ、交流重賞へ、そしてJpnI、GIの大舞台へ。それぞれの成果と課題を持ち帰る一戦になった。


写真:ぼん(@Jordan_Jorvon)

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