[重賞回顧]自身の走りに徹したダノンデサイルが、ダービー馬の貫禄と実力を示し重賞3勝目~2025年・アメリカジョッキークラブC~

2ヶ月間にわたっておこなわれた中山開催を締めくくるアメリカジョッキークラブCは、26年ぶりに前年のダービー馬が参戦。例年以上に注目を集めるレースとなった。

その26年前は、ダービー馬スペシャルウィークが2着に3馬身差をつける完勝。以後、天皇賞春・秋連覇やジャパンC制覇など、この年3つのビッグタイトルを獲得し、さらなる飛躍の足掛かりとした。

ただ、中山芝2200mは、ダービーがおこなわれる東京芝2400mとは異なり、特殊なコース形態。マツリダゴッホやネヴァブションなど、このコースで無類の強さを発揮する名馬がいた一方で、デアリングタクトやレイパパレらが思わぬ苦戦を強いられてきた。

実績か、コース適性か──。

ファンの評価が真っ二つに割れる中、実績で勝るダノンデサイルが僅かの差で1番人気に推された。

1年前の京成杯で重賞初制覇を成し遂げたダノンデサイル。続く皐月賞こそスタート直前のアクシデントで除外となるも、仕切り直しで臨んだダービーを完勝し世代の頂点に輝いた。

その後、菊花賞は展開のアヤで6着に敗れたものの、古馬と初めて対戦した有馬記念は逃げて3着に好走。そこから中4週で臨む今回は、ダービー馬として負けられない一戦だった。

これに続いたのがレーベンスティール。2023年のセントライト記念で皐月賞馬ソールオリエンスを破ったレーベンスティールは、その後、2戦連続大敗を喫するも、エプソムCとオールカマーを連勝。前走の天皇賞(秋)は展開に恵まれず8着に敗れたものの、中山は4戦3勝2着1回と得意にしている。

とりわけ、中山芝2200mでおこなわれる3つの重賞のうち2つを勝利しており、今回は完全制覇が懸かる一戦。コース適性に勝る自身の庭でダービー馬撃破なるか、注目を集めていた。

そして、これら2頭からやや離れた3番人気にはコスモキュランダが推された。単勝34倍の低評価を覆し弥生賞ディープインパクト記念を快勝したコスモキュランダは、続く皐月賞も2着に好走。さらに、ダービー6着を挟んだセントライト記念でも2着に好走するなど、この馬もまた中山は6戦1勝2着4回とコース適性が非常に高い。

前走に続いて鞍上を託されたのは、関東のエース横山武史騎手。得意舞台で2つ目のタイトル獲得なるか、期待されていた。

以下、2022年の菊花賞と有馬記念で2着の実績があり、長休明け2戦目で待望の重賞制覇を目指すボルドグフーシュ。前走の菊花賞で上がり最速の末脚を繰り出し、5着に食い込んだビザンチンドリームの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートからアウスヴァールがいこうとするところ、マテンロウレオとポタジェが追随。さらに、前年の覇者チャックネイトもこの争いに加わったものの、最終的にアウスヴァールが先手を切った。

これら4頭を見ながら5番手を併走していたのがボーンディスウェイとエヒトで、その後ろにダノンデサイルとレーベンスティールの人気2頭が位置。ライラックを挟んだ10番手にボルドグフーシュがつけ、コスモキュランダは後ろから6頭目に控えていた。

1000m通過は1分0秒6の平均ペースで、離れた最後方を追走するニシノレヴナントと先頭までは30馬身近い差。かなり縦長の隊列となるも、ペースは落ち着いたかに思われた。

ところが、ここでコスモキュランダが得意のマクりを敢行。2番手チャックネイトの直後につけると、チャックネイトもスパートして単独先頭に立ち、ペースが上がった。

一方、人気2頭はこれらの動きにつられることなく、依然として中団やや前を追走。その後、4コーナーに差しかかるところでダノンデサイルもスパートし4番手までポジションを上げる中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入るとすぐ、コスモキュランダがチャックネイトを交わし先頭。後続を引き離しにかかったものの、内に潜り込んだマテンロウレオがこれに並びかけ、今度は半馬身ほど前に出た。

ところが、坂の途中で3番手に上がったダノンデサイルの末脚がついに炸裂。前2頭との差を徐々に詰めると、ゴール寸前できっちり捕らえ1着でゴールイン。3/4馬身離れた激戦の2着争いを制したのはマテンロウレオで、コスモキュランダがハナ差3着となった。

良馬場の勝ちタイムは2分12秒1。ダービー馬の貫禄と実力を見せつけたダノンデサイルが、有馬記念からの中4週をものともせず快勝。シーズン初戦を白星で飾った。

各馬短評

1着 ダノンデサイル

道中は他馬の動きに惑わされることなく、中団やや前に位置。その後、勝負所からスパートし、差は僅かでもゴール寸前できっちりと2頭を捕まえシーズン初戦を飾った。

気難しい馬が多いエピファネイア産駒でありながら、著しく折り合いを欠くようなことがほとんどない馬。横山典弘騎手以外のジョッキー(戸崎圭太騎手)が初めて実戦で騎乗したものの、やはり問題はなかった。

それでも、管理する安田昭伍調教師によると「4コーナーでバランスを崩すようなところがあり、まだ幼い。体の成長は感じるものの、精神的に大人にならない」と、辛口の評価。父エピファネイアが最も強い競馬をみせたのは4歳時のジャパンCで、本格化すれば、ビッグタイトルをさらに上積みする可能性は十分にある。

2着 マテンロウレオ

この馬もまた、他馬の動きにつられることなく自身のペースを保持。さらに、4コーナーで上手く内に潜り込み、直線でコスモキュランダを交わした際は一瞬やったかと思わせたが、最後の最後でダービー馬に屈した。

ダノンデサイルの主戦を務める横山典騎手が、先約があったとしてこちらに騎乗。結果、同馬に差し切られたのは、非常に悔しかったかもしれない。それでも、年齢や2走前までの内容を考えれば、限りなく100点に近い内容だった。

きさらぎ賞を勝利した実績があるとはいえ、晩成型が多いハーツクライ産駒。それだけに、この2戦連続好走をきっかけとして再浮上する可能性は十分にある。

3着 コスモキュランダ

この日も得意のマクりが出て、中間点付近から一気に上昇。最後はやや脚色いっぱいになったものの、展開を考えれば最も強い競馬をしていた。

惜しまれるのはスタートで、ダッシュがつかず、序盤、後方からの競馬になったこと。対して、1、2着馬は中団よりも前に位置し常に自身のペースで走れていた。そういった意味でも負けて強しの内容といえ、2000m~2200mかつ小回り、内回りのレースでは、今後も好走が期待される。

レース総評

前半1000m通過は1分0秒6の平均ペースで流れたものの、6ハロン目から3ハロン連続で加速する特殊なラップ構成。さすがにこれが堪えたか、上がり3ハロンは我慢比べ=失速ラップとなり、直線の急坂で前が止まったところをダノンデサイルが差し切った。

勝ったダノンデサイルの父はエピファネイアで、今やロベルト系種牡馬のエースといっても良い存在。そんなロベルト系種牡馬の特徴といえば、スタミナや馬力、底力を産駒に伝えること。1月の中山は12月からの連続開催で、毎年のようにパワーとスタミナが要求される馬場となり、ロベルト系種牡馬の特徴に合致する。

そのため「1月の中山はロベルトとサドラーズウェルズ」が、長年、血統派の合い言葉となっており、これら2つの血を併せ持つのがエピファネイアとロベルト系のもう一頭のエース種牡馬モーリスである。

事実、1月の中山芝でおこなわれた4つの重賞すべてでロベルト系種牡馬の産駒が連対。うちエピファネイア産駒が2勝、モーリス産駒も1勝をあげ、2024年の1月もエピファネイア産駒が2つの重賞を制した。

また、ダノンデサイルに関しては、どうしてもダービー制覇の実績が真っ先に取り上げられるものの、今回の勝利で中山は3戦2勝3着1回。実力がコース適性を上回ったとみることもできるが、得意コースと断言して間違いないだろう。1ヶ月前に終わったばかりで気の早い話だが、父が制したジャパンCはもちろん、年末の有馬記念も楽しみになった。

対して、コース適性を評価され、ダノンデサイルと人気を二分したレーベンスティールは12着に大敗。くっきりと明暗が分かれた。

道中は、そのダノンデサイルと併走するかたちでスムーズに追走。スパートのタイミングもほぼ同じで、内枠を引いた分、コースロスはダノンデサイルよりなかったはずだが、坂下で失速してしまった。

レース後、鞍上のクリストフ・ルメール騎手は「以前より体がムキムキ(馬体重、前走比12kg増)になっていて、普通のペースだと2200mは長い」とコメント(参照ラジオnikkei)。メンバーが異なるとはいえ、僅か4ヶ月前に同じコースでおこなわれたオールカマーを勝利しており、そんなことがあるのかと思ったが、オールカマーはレース上がりが34秒8で、スローからの瞬発力勝負だった。

一方、我慢比べとなった今回のアメリカジョッキークラブCは上がり36秒6の消耗戦。レースの性質はまるで異なる。血統を見ると、父リアルスティールが現役時にあげた4勝はいずれも1800m戦であり、今後レーベンスティールの主戦場も1800m前後になるかもしれない。

写真:s1nihs

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