[対談]どう見るべき?ディープ後継種牡馬たちの捉え方──治郎丸敬之×緒方きしん

前回のテーマはディープ産駒についてだったが、今回はその後継種牡馬たちにスポットを当てていく。
初年度から重賞馬を出したキズナ、G1馬を出したリアルインパクト、さらには種牡馬として先にデビューしているディープブリランテなど、ディープの血を引く種牡馬は多い。
その中から一歩抜け出すのは、どの馬だろうか?
注目の2歳馬を探しつつ、ディープ後継種牡馬について考えていく。
語り手は、ベストセラー「馬体は語る」の著者・治郎丸敬之さんと、「天才のPOG青本」執筆陣の1人である緒方きしん。

緒方:さて、今回はディープ後継種牡馬争いについてです。今年だけでなく今後のPOG戦略を占う意味でも早めに傾向を掴んでおきたいテーマです。ディープが亡くなり、かわりに多くの「父ディープ」種牡馬たちが勢力争いを開始しました。治郎丸さんは、ディープ後継馬として、どの種牡馬を推しますか?

治郎丸:ディープの後継といっても解釈は様々だからなぁ……。ひねった回答をしないのであれば、どうしてもキズナしか思い浮かばないかな。

緒方:王道ですね。でもキズナ、たしかに良いと思います。初年度から複数活躍馬を出しましたし、ライバル・エピファネイアに見劣りしない成績を収めました。十分なほどの活躍をしてくれています。

治郎丸:社台スタリオンステーションに取材で行った時、ディープを見せてもらったあとにキズナを見ると、とてもじゃないけど親子とは思えなかったんだよね。ディープは馬体的にも特に主張がない、おとなしい馬。でもキズナは馬体は筋骨隆々だし気性は激しいし……かなり雰囲気が違う。母系が強調された馬で、パワー型の馬だった。

緒方:前回の対談でも、治郎丸さんは「キズナはダート2000mを試して欲しかった」と仰ってましたもんね。確かにキズナは500Kgを超える雄大な馬体の持ち主でした。

治郎丸:ダートは試せなかったけどきっとやれたと思う。能力がめちゃめちゃ高いからダービーも勝てたし、海外遠征でも活躍できたと思うけど、本質的な適性はわからないね。産駒にもパワー型が多く、マッチョが多い。ディープボンドはスピードよりパワーのある馬だと思うけど、ああいうタイプが「良いキズナ産駒」なんだろうなぁ。デアリングタクトという大物を出したエピファネイアよりも、キズナはアベレージが良い馬だと思う。この時期に2勝している馬が結構いるしね。

緒方:ウマフリで「走るキズナ産駒の法則を見つけた!」という記事を掲載しましたが、シンプルに「スピードのある繁殖」との相性が良いみたいですね。キズナの持つパワフルさとバランスが取れるのでしょう。超良血馬との配合で成功したディープとは異なり、日高の繁殖との相性も良いというのが魅力的だと思います。

治郎丸:たしかに、スピードを補えるのは良いと思うな。まぁ、日高との配合で結果を出しているとはいえ、産駒の傾向そのものがディープとキズナとでは違うけどね。キズナ産駒は気性の前向きさをいかして、早く仕上がって活躍をするタイプ。2歳戦から活躍するから、POG的には心強い種牡馬になっていくと思う。テイクバイストーム(母マザーウェル)はデビューも早くて、夏の2歳重賞を狙える素材だと思うな。祖母のシンコウラブリィも好きだったし、応援してる。

緒方:キズナ産駒は函館2歳S・札幌2歳Sを狙うタイプと仮定すると、ディープとは結構違ってきますね。やっぱりディープらしい産駒を送り出せるディープ後継種牡馬はなかなか出てこなさそうですか。

治郎丸:そもそも、現役時代の走り・馬体を見ても、ディープっぽいディープの子ってなかなかいないしね。トーセンラーくらいかな?ディープって特殊で、馬体の良さとかではなく、単純にバネがあって足が速いという不思議な馬だった。走る前からオーラがあるようなタイプではないし、あくまで「突然変異」だから、その「突然変異」な能力をそのままコピーするというのは難しいと思うんだよね。だからこそディープは、母系の能力を引き出すという形で多種多様な競走馬を出して、成功した。

緒方:つまりディープタイプの種牡馬が続々と出てくるわけではなく、多種多様な種牡馬が出てくるだろう、ということですね。

治郎丸:そう。各方面のスペシャリストがたくさん出てきて、それぞれの良さをいかしながら「ディープ系」として枝葉を広げていくんじゃないかな。

緒方:ダイワメジャー・ダンスインザダーク・ゴールドアリュールを出したサンデーサイレンスみたいですね。まだ現役ですけど、ダンスインザダークのポジションにはフィエールマンが収まってくれそうですし、ダイワメジャー的なポジションにはリアルインパクトが当てはまるかもしれません。そう考えると結構納得感のある仮説に思えます。

治郎丸:今年デビューではないけど、サトノアラジン産駒も評価が高い。がっちりしたタイプで、ダートマイルあたりでもやれそうだと睨んでるよ。サトノアラジン母父のストームキャットが強く出ている。

緒方:確かにディープ後継種牡馬はダートで結構勝ってたりするんですよね。ディープブリランテ産駒はこれまであげた中央134勝のうち31勝はダートですし、ダート転向後に7戦6勝という成績で今年の黒船賞・かきつばた記念を制覇したラプタスという大物まで登場しています。トーセンホマレボシも中央64勝のうち24勝がダートです。(データは2020年5月29日現在のものを使用)

治郎丸:ディープブリランテは個性が掴みきれていないんだよな。ガチガチのアメリカン血統でもないし、ダービー勝ったイメージもあってどうしても2400mでの活躍を期待してしまうんだけど、それがちょっと可哀想でもある。きっともう少しマイル寄りの馬だったはず。ダービーはうまく乗って勝った印象があるもん。

緒方:ディープブリランテ産駒でピックアップするなら、グルーヴビート(母グルーヴビート)は曽祖母がエアグルーヴなので血統的な期待値は十分です。成長力も感じますし、頑張って欲しいです。他のディープ系種牡馬というと、昨年の新種牡馬スピルバーグは良血ですし期待していたんですが、現状はちょっと苦戦しているみたいですね。

治郎丸:トーセンラーもちょっと苦戦してるし、少なくともPOG向きではなさそうだよね。ワールドエース産駒も、全弟ワールドプレミアを見てもスタミナが根底にある血統で、今の日本ではすぐに勝ち上がるのは難しいタイプかもしれない。ただ牝馬だと、マイルあたりでも活躍させられそうな可能性は感じる。デビューから連勝でアルメリア賞を制覇したスペードエースは強そうだし、種牡馬としてのポテンシャルはあるんだろうね。

緒方:ワールドエース産駒は古馬になってからの活躍も楽しみなタイプですね。繁殖の質があがってくれば十分戦えそうな雰囲気はあります。母系に流れるドイツ血統がどう出てくるか次第ですね。エイシンフラッシュをはじめ、ドイツ血統を持つ種牡馬は現役時代の強さに比べて苦戦しがちなイメージがあるので、そのイメージを払拭して欲しいです。ディープ後継に話を戻すと、「新種牡馬対談」でも話題になったミッキーアイルの産駒がどれだけ走ってくるかで、今後の勢力図がわかってきそうです。

治郎丸:個性がハッキリしているタイプは今の「種牡馬戦国時代」でも生き残れると思うし、ミッキーアイルにはそうした活躍を期待したいね。ただ、今の時代にエピファネイア・キズナのようにのし上がること自体がレアケースだと思う。それだけに、キズナの存在は貴重だと思うな。僕は基本的に中距離の馬が好きだから「一口馬主」的な観点としてはキズナ産駒には出資しないだろうけど、「POG」的な観点としては魅力十分。キズナ産駒を2歳重賞路線における主力に考えているよ。粒は揃っているから活躍馬はきっと出てくるはず!

「父ディープ」の種牡馬は、母系の影響を色濃く受け継いだ多種多様なタイプが登場してくると語った治郎丸さん。まだ結果が出ていない種牡馬や新種牡馬も含めて、現役時代の走りだけでなく母系を見て産駒の傾向を推し量るのは有効だろう。

着実に成績を出してくれそうなキズナ・ミッキーアイルや、早くもG1馬を出したリアルインパクトはもちろんのこと、これからくる「ディープ後継争い」を睨んで、今シーズでは指名せずともチェックはしておきたいところだ。

次回のテーマは「ベテラン種牡馬」について。

写真:Horse Memorys

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