[対談]最強マイラー・モーリスは種牡馬として成功するのか!?──治郎丸敬之×緒方きしん

POG2020-2021シーズンの開幕が近づいてきた。
昨年の新種牡馬は、エピファネイア・キズナ・リアルインパクトらを中心に大活躍。種牡馬の世代交代を印象づけた。
2020年に産駒がデビューを迎える新種牡馬たちにも、モーリス・ドゥラメンテをはじめとした注目馬が目白押し。群雄割拠の新興勢力争いで、ライバルから一歩抜け出す活躍を見せるのは、どの馬だろうか?
今回はその中からモーリスについて語り合う。語り手は、ベストセラー「馬体は語る」の著者・治郎丸敬之さんと、「天才のPOG青本」執筆陣の1人である緒方きしん。


緒方:今年の新種牡馬については、モーリスVSドゥラメンテという構図がメイントピックです。どちらも魅力的な繁殖牝馬を集めましたが……実際、どちらが覇権を握りそうですか?

治郎丸:1番難しい質問だよね(笑)ぶっちゃけると、どっちも成功すると思うなぁ。ただ、どちらも「ダービー向き」というわけではなさそう。モーリスの方が早くデビューできそうだけど基本はマイラーだろうし、ドゥラメンテは仕上がりの早さに不安が残る。

緒方:僕は彼らが種牡馬入りした当初、ドゥラメンテは成功間違いなしとして、モーリスは意外と失敗する要素が強いと読んでいました。しかし実際に2歳を迎えた産駒たちの馬体を見てみたら、かなり良いです。好きなタイプですね。こんなに母親の良さを引き出してくれるタイプだったんだな、と。あまりマイル路線にこだわらなくても良さそうな気がします。

治郎丸:血統的なところでいうと、モーリスってめちゃくちゃ良血牝馬を集めているよね。ディープ・キンカメが種付け減らしている時期と重なるラッキーもあったし。あと、ディープ牝馬と配合できるのは強みで、モーリスの古風な血統とは相性が良さそう。父ディープインパクト×メジロ血統牝馬だとグローリーヴェイズが香港ヴァーズを勝ったりして結果を残しているけど、単純にそれをひっくり返しただけだから、メジロ血統のモーリス×ディープ牝馬は良さそうかなと思ってる。

緒方:母父ディープのモーリス産駒は、ディープ産駒と見間違えるようなタイプの馬も出しているのが面白いです。サイズ感は全然違うんですけど、フォルムからするとディープっぽい馬が結構いるんで、その辺りの馬が活躍してくるとなると頼もしい種牡馬になるでしょうね。セブンサミット(母シンハライト)なんて、シルエットだけだとディープっぽいから、ディープ産駒的な活躍を期待しています。つまりは、クラシック路線での活躍です。

治郎丸:セブンサミット(母シンハライト)ねぇ……デカいよね(笑)シンハライトって小さい馬だったのに、小さくなりがちな傾向になる初仔で500キロ前後ってのは、めちゃくちゃデカい印象。これには現場も驚いていると思うし、どの血がどう作用しているかは気になるな。正直なところ、セブンサミットは大きすぎるから僕はあまり高い評価はしてない。レガトゥス(母アドマイヤセプター)もデカいからなぁ……調教していく中で動きが身体についてくれば、すごいことになると思うんだけど。ルペルカーリア(母シーザリオ)も中長距離路線の馬かなと思っていたんだけど、これもまたデカさが気になる。想定していたより動きが重く感じられるし、2歳戦からバリバリ動けるというタイプではなさそうかな。

緒方:ルペルカーリア(母シーザリオ)、めちゃくちゃ良い馬だと思いますよ!筋肉がモリモリ過ぎてちょっと心配ですけど、それでもこれだけの好馬体ならどうしても期待したくなります。血統的にも抜群ですしね。マイル〜2000mあたりで活躍してくれるのではないかと。ただ、先ほどモーリスについて「母親の良さを引き出す」と言いましたしその通りだと思っているのですが、それとは別に、なんだか筋骨隆々なタイプもいるんですよね。正直、この時期に筋肉ムキムキだというのが良い傾向かというと、疑問符がつきます。

治郎丸:わかる、筋肉すごい子いるよね(笑)モーリス産駒は結構馬体にバラつきがある。バラエティに富んでいるって考え方で良いとは思う。筋骨隆々なタイプは、もしかするとダートの短距離で活躍できるかもしれない。

緒方:POG的な観点だけでいえば、筋肉質なのが芝でのスピードに向けばいいんですけど、種牡馬としては芝ダート両方いけると強みですね。ただ、モーリスも素晴らしい筋肉を武器に芝のマイル〜中距離で勝ちまくった馬でした。この筋肉がどう作用するかはまだ不明です。

治郎丸:モーリスは現役時代、2歳の頃からすごい馬体だった。でもどうしてだか当初は期待されているほど走らなかったんだよね。人気を下回るというか。転厩とか色々な要素があったとは思うけど、若い頃と古馬になってからとで成績に差がある根本原因は「緩さ」にあると思う。その「緩さ」っていうのは難解で、ちょっとウォーキングしている程度だとなかなか見分けられない。実際に乗っている人の感覚か、調教で早いタイムを出し始めるまではわからないかもっていうのが本音。 そして、産駒にもその緩さが伝わっている可能性は高い。

緒方:緩いまま勝てちゃう馬もいますけどね。調教を見ての判断になると、6月に指名馬を全て決めるルールのPOGなら、モーリス産駒は博打要素の強い指名になってしまいますね。

治郎丸:外見はできているからデビューはできるだろうけど、本格化を待つならちょっと先々を見てあげて欲しいよね。先ほども言った通り本質的にはマイラーなはずだけど、その緩さ故にダービーくらいまでの時期なら距離をギリギリ持たせられるかもしれない。あと、モーリスはマイラーだからモーリスの血だけならマイル一本だろうけど、スタミナのある良血牝馬が集まったから距離の守備範囲は広がりそうだと思ってる。アーモンドアイを出せたロードカナロアと同じパターン。似てる種牡馬になると思うな。緒方くんは、モーリスは過去のどんな種牡馬に似ていると思う?

緒方:良い意味で、ネオユニヴァースですかね。マッチョな馬を出しながらも、母親の良さを引き出せているあたりが。正直ネオユニヴァースはもっと評価されていて良い種牡馬だと思っているので、僕の中で「ネオユニヴァースタイプの種牡馬」は期待値が相当高いということになります。筋肉質なダート馬なども含めて、様々なタイプの産駒を出してくれると思いますよ!

治郎丸:ネオユニヴァースは種牡馬としての幅があったよね。僕もサンデー直仔の種牡馬としては3番手くらいの評価をしてあげて良いと思ってる。モーリス産駒に話を戻すけど、ゾディアックサイン(母レネットグルーヴ)は素晴らしいね。非の打ち所がないと思う。モーリス産駒ではこの馬がナンバーワン。

緒方:たしかに良い馬ですよね!僕は先ほど名前があがったルペルカーリア(母シーザリオ)、 セブンサミット(母シンハライト) あたりも非常に期待しているので意見は割れますが……ここまで出ていないところだとブエナベントゥーラ(母ブエナビスタ)は楽しみですね。サンデーの4×3がモーリスにとってどうかというのも気になりますし、厩舎はモーリスをよく知る堀厩舎です。グラスワンダーの血とスペシャルウィークの血が時を経て混ざり合う、というのもロマンがあります。

治郎丸:モーリスは動きをみてナンボというところはあるけど、母親やその牝系を見ていけば、ある程度良い馬が導き出せるんじゃないかな。意外な牝馬から大物を出すというよりは、社台・ノーザン系の超良血牝馬たちのポテンシャルを引き出した馬が活躍すると思う。

緒方:大牧場の後押しは心強いですね。きっとグラスワンダー・スクリーンヒーローから連なる父系を繋いでくれる名馬が登場してくれるはずです。大いに期待しています!


次回のテーマは、ダービー馬ドゥラメンテ。
こちらも大牧場の後押しを得ている、超良血馬だ。
一見何の心配も不安もない新種牡馬に感じるが、そこに懸念点はあるのだろうか?

注目したいポイントを語っていく。

写真:がんぐろちゃん、ゆーた、Horse Memorys、かぼす

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