かつて、多くの競馬ファンを虜にしたサイレンススズカという快速馬がいた。
父に大種牡馬サンデーサイレンス。
母の父はアメリカで産まれ、フランスで走った後に種牡馬として成功した芝の短距離馬ミスワキ。
本格化後は絶対的なスピードの違いでレースのスタートからゴールまでを支配し続け、破竹の6連勝で天皇賞・秋の大舞台に出走した彼は、あまりに悲しく切ない形でターフを去ることとなった──。

スピードの限界を知っている馬サイレンススズカ。

日本から遠く離れたアメリカで、そんなサイレンススズカと同じく母の父にミスワキを持った馬が誕生した。
父は「ダンチヒ晩年の傑作」と言われた、名種牡馬フォーフロント。

ザファクターと名付けられたその馬の走りは、確かに日本のターフを駆け抜けた快速馬を想わせるものが眠っている。

ザファクター
- 2008年 アメリカ産まれ

現役時代

ザファクターはアメリカで産まれ、競走馬として活躍した。

父ウォーフロント。
母父にミスワキ。
母母父にアメリカの名種牡馬アイスカペイドという配合で、スピードとパワーに秀でた血統構成である。

2歳時は2戦1勝で、勝ったのは未勝利戦のみ。一見すると地味な戦績ではあるが、サンタアニタ競馬場のダート6Fで逃げきって1:06.98というトラックレコードを叩き出し、後続に8馬身以上の差をつけて勝利している。

自身に眠るスピードの才能を開花させたザファクターは、3歳のG2戦を2連勝。
その勢いに乗って4月のアーカンソーダービー(G1 ダート9F)に出走したが、そこでは距離の壁もあり7着に敗れてしまっている。

しかし8月には軌道修正してパットオブライエンS(G1 AW7F)に出走し、初のG1タイトルを獲得した。

その後は3歳の12月にマリブS(G1 ダート7F)で2つ目のG1タイトルを獲得。
明けて4歳初戦のサンカルロスS(G2 ダート7F)を勝利し重賞5勝目をマークしたが、ドバイ遠征戦のゴールデンシャヒーン(G1 AW1200m)を6着、帰国後のG1レース2戦とも2着と勝利には届かず、13戦6勝(うち重賞5勝)の戦績で種牡馬入りすることとなった。

ザファクターの勝利した時のレースぶりは、決して一介の逃げ馬のものではなかった。
直線を先頭で迎えると、必ず直線で末脚を使って後続を突き放す。
まさに「逃げて差す」というサイレンススズカに用いられていた絶対的なレースぶりで、レースの始めから終わりまでを支配していた。

スピードだけではない底力を秘めた、ザファクターの走り。
種牡馬として、その才能が産駒たちにどのように受け継がれているのかを見ていきたい。

種牡馬としてのザファクター

2013年より米国レーンズエンドファームで種牡馬入り。
翌年からはオーストラリアとのシャトルを開始したザファクターは、初年度産駒から、2歳GIのシャンデリアS(G1 ダート8.5F ※現在はG2に格下げ)を制したノーテッドアンドクオーテッドを輩出した。
また日本競馬では2017年までに輸入された産駒3頭全てが勝ち上がり、日本競馬への確かな適性を示している。
そのため2018年は2月10日から6月30日までのリースで日本軽種馬協会静内種馬場にて供用。
2021年3月現在、日本で出走した産駒は輸入馬のみでわずか5頭なので、今後のための貴重なサンプルとして日本で走った産駒たちの活躍ぶりから、ザファクターという種牡馬を考察してみたい。

2014年産
  • ズアー(牡馬 栗東 池添学厩舎)

吉田和美氏の持ち馬。
7歳となる今も現役で、2021年3月現在、14戦2勝[2-2-0-10] 獲得賞金3,625万円という競走成績である。
芝の1200〜1400mを主戦場にしていて、2歳12月の新馬戦を勝利した後に5歳の1月に1勝クラスで2勝目をマーク。その後は2勝クラスで2度の2着があるも、近2走は2桁着順が続いてしまっていて、今後の立て直しが期待される。

  • ライバーバード(牡馬 美浦 手塚貴久厩舎)

アメリカからの輸入馬でダートを中心に活躍馬が多い馬場幸夫オーナーの持ち馬。
こちらも2021年3月現在、現役を続けていて、28戦3勝[3-5-3-17] 獲得賞金4,994万円というタフな競走成績。

ライバーバードはしばらくはダートを主戦場に戦っていたが、現在は2勝クラスの芝スプリント戦を舞台に堅実な戦績を上げている。

血統的にはズアーもこの馬もミスプロやファピアノなどの多重クロスを5代内に抱えている点で共通している。

  • アルファベット(牡馬 川崎 佐々木仁 厩舎)

こちらも馬場幸夫オーナーの持ち馬。
中央ではダート1200〜1700で5戦するも勝ち上がれず、その後川崎に籍を移してからは8勝と活躍。
34戦8勝 [8-5-4-17] 獲得賞金4,994万円(中央:250万円/地方:3,306万円)という立派な戦績を上げている。
この馬も、ミスプロのクロスを持つ点が上の2頭と共通している。

2016年産
  • サンノゼテソーロ(牡馬 美浦 田中博康厩舎)

「テソーロ」の冠名でおなじみの了徳寺健二ホールディングスの持ち馬。
2020年の12月20日に南総S(3勝C 芝1200m)に出走して、江田Jを背に10番人気ながら勝利。
ザファクター産駒のなかで、今最も名前が売れている産駒ではないだろうか。

芝1200mを主戦場にしているスプリンターで、2021年3月現在、15戦4勝 [4-0-1-10] 獲得賞金5,858万円の戦績を上げていて、いまのところ日本競馬におけるザファクター産駒の最多勝利馬かつ最多獲得賞金馬となっている。

血統的には上の3頭と同じく、ミスプロのクロスを持ち、ノーザンダンサーのクロスも持つ。

  • ステラインアテーザ(牡馬 栗東 中竹和也厩舎)

こちらは5戦して未勝利(地方含む)という戦績で、唯一現役を引退してしまっている。
芝の出走は1400mの2歳新馬戦の1戦のみ(2番人気6着)であとはダート戦であったため、可能であればもう少し芝の1200m戦あたりを使っていれば、もしかすると……という戦績である。

ミスプロの4×3、ダンチヒの3×4と、他の馬に比べて近い世代でインブリードを持つ点が特徴。

上記の輸入馬たちの活躍ぶりを見ると、少しずつザファクター産駒の雰囲気がつかめてくる。
重賞制覇や獲得賞金1億円超えなどの派手なパフォーマンスは無いものの、5頭のサンプルでこれだけの安定的な活躍を出来ている種牡馬なので、そのポテンシャルは間違いないだろう。

上記各馬の戦績を踏まえ、さらに要点ごとに分析していく。

①牡馬の産駒

ダートや芝スプリント向きのパワーやスピードを強く伝える種牡馬として、輸入されて活躍している馬はいまのところすべて牡馬となっている。
おそらく牡馬産駒優勢のコルトサイアーであると考えられる。
一口馬主の出資やPOG指名などの際は牡馬の産駒を優先的に検討することをオススメしたい。

②ミスプロのクロス

父方(母父のミスワキがミスプロの産駒)と母方でミスプロのクロスを持つことが、日本で活躍している産駒の共通点。
ミスプロは芝向きのスピードと柔らかさも伝える血なので、芝のスプリントを戦う上では良い補完材料になっていると考えられる。

逆にダートのスプリンターなどの出現を期待したいのであれば、あえてミスプロのクロスを持たない馬で、バックパサーやボールドルーラーを母方に持つ馬を狙ってみても、面白いかもしれない。

奇しくも悲運の快速馬サイレンススズカと同じく、母の父にミスワキの血を宿したザファクター。

活躍舞台は違えど、サイレンススズカが成し得なかった第二の馬生と夢の続き──。
そんな希望を託してみたくなる、楽しみな種牡馬である。

写真:三木俊幸

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