![[重賞回顧]幸運は名手と共にやってくる~2026年・安田記念~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/06/202606081-scaled.jpeg)
日本ダービーの熱気も冷めやらぬ中、列島を台風6号が通過し、各地で大雨に見舞われた。
その影響はトレーニングセンターも例外ではなく、悪天候、道悪のコースで追い切りが行われ、各陣営が雨にも負けず稽古をつけた。
目指すタイトルは春のマイル王決定戦、安田記念である。
今年は例年以上に、新王者誕生への期待が高まる一戦となった。
国内マイル王者ジャンタルマンタルは香港遠征後に休養へ入り不在。
さらに昨年のヴィクトリアマイルを制したアスコリピチェーノも故障により阪神牝馬Sを最後に現役を引退していた。
加えて、今年のヴィクトリアマイルからは転戦組もおらず、参戦各馬にとってマイルGⅠ獲得のチャンスが大きく広がっていた。
さらに本番1週前のタイミングでも有力馬の回避の報が続いた。期待を集めていたアドマイヤズームは爪の不調で出走を断念。NHKマイルCから登録を行っていた3歳馬アスクイキゴミも、秋のブリーダーズカップマイルを見据えて回避を選択した。その結果、今年の安田記念は17頭立てで行われることとなった。
人気を集めたのは、芦毛の7歳馬ガイアフォース。3歳時にはセントライト記念を制し、菊花賞では1番人気に推された実力馬だ。その後はマイルから2000mを主戦場とし、フェブラリーS、安田記念、マイルチャンピオンシップでそれぞれ2着。あと一歩で届かなかった悲願のGⅠタイトルへ挑む。
7歳を迎えて白さを増した馬体に、悲願の金メダルは掛けられるだろうか。
続く人気はトロヴァトーレ。3歳時はクラシック出走こそ叶わなかったものの、今年は京都金杯4着から東京新聞杯、エプソムCと東京競馬場で重賞を連勝。充実一途の5歳馬にはC.ルメール騎手が騎乗する。
レーベンスティールもまた、悲願のGⅠ制覇を目指す一頭だ。GⅡタイトルを4つ獲得している現役屈指の実力馬だが、GⅠではあと一歩届かない競馬が続いている。戸崎圭太騎手とのコンビで5度目の挑戦に臨む。
ルメール騎手がトロヴァトーレ、戸崎騎手がレーベンスティールに騎乗することで、これまで彼らとタッグを組んできたシックスペンスには新たなパートナーが決まった。アドマイヤズームの回避によって騎乗馬がいなくなった武豊騎手との新コンビである。
シックスペンスもGⅡを3勝している実力馬。昨年のマイルチャンピオンシップ南部杯では初ダートながら2着に好走し、その後もダートGⅠへ挑戦を続けてきた。今回は再び芝へ戻り、待望のGⅠタイトル獲得を狙う。国枝栄調教師の定年引退に伴い、田中博康厩舎へ転厩してから初のGⅠ参戦だ。
さらにパンジャタワー、シャンパンカラーといった2世代のNHKマイルC馬に、2024年桜花賞馬ステレンボッシュも参戦。3歳時にはGⅠホースに輝いた彼らだが、古馬GⅠタイトルはまだ手にしていない。再び大舞台で輝きを放つことはできるだろうか。
連勝の勢いか。積み重ねた実績か。それとも悲願へ懸ける執念か。
梅雨入りした曇天の東京競馬場。新たなマイル王の称号を目指し、17組の人馬が静かにゲートへと向かっていった。
レース概況
大きく出遅れる馬はなく、スズハローム、セイウンハーデス、パンジャタワーが好スタートを決める。
しかし、彼らを制してスタートからワールズエンドが積極的に先頭へ立ち、ハナを主張。内枠のシックスペンスがこれを追う形で2番手につけた。
3番手集団にはセイウンハーデス、ロングラン、レーベンスティールが続き、その直後にステレンボッシュ、パンジャタワーが構える。中団にはオフトレイルとサクラトゥジュール、さらにその後ろでガイアフォースの芦毛の馬体が悠然とストライドを伸ばしていた。
シャンパンカラー、ドラゴンブースト、シリウスコルト、スズハロームらが続き、トロヴァトーレは後方3番手。初芝挑戦のルクソールカフェ、そして追い込みに賭けるウォーターリヒトが最後方からレースを進める。縦長の隊列をワールズエンドがマイペースで引っ張り、そのまま3コーナーへ向かっていった。
レースが動き始めたのは直線入り口だった。残り600m付近でシックスペンスがワールズエンドの直後まで接近し、セイウンハーデスも徐々に進出を開始する。
直線では一度ワールズエンドの内へ進路を求めたシックスペンスだったが、武豊騎手は冷静に一呼吸置き、馬場の外目へ誘導。逃げるワールズエンドを外から捉えにいく形へ切り替えた。
ワールズエンドも自ら作った流れの中で余力を残しており、簡単には止まらない。残り200m、先行勢は外目の馬場を選び、差し馬たちは内外へ散って追撃を開始。逃げるワールズエンドへシックスペンス、セイウンハーデスが迫り、さらに外からはパンジャタワーとガイアフォース。内ではレーベンスティール、オフトレイルも脚を伸ばしてくる。
津村騎手の鼓舞に応え続けたワールズエンドだったが、ゴール寸前でついにシックスペンスが前へ出る。さらに中団から外を伸びたガイアフォース、そしてワールズエンドが最後まで粘り込み、3頭による激しい争いのままゴール板を通過した。

写真判定の結果、シックスペンスがクビ差抜け出して勝利。2着は追い込んだガイアフォースと逃げ粘ったワールズエンドの同着となった。4着にはセイウンハーデス、5着には先行集団からしぶとく脚を使ったパンジャタワーが入線した。
上がり最速の末脚を繰り出したガイアフォースが2着まで追い上げたものの、ワールズエンドとシックスペンスが前でレースを支配したことで、後方待機勢には厳しい流れとなった。
シックスペンスにとってはGⅠ級競走7度目の挑戦で悲願の初制覇。武豊騎手は自身の最年長JRA・GⅠ勝利記録を更新し、田中博康厩舎は騎手・調教師で共に芝のGⅠレースを勝つことが出来た。40歳の若き調教師と、騎手生活40年目を迎えた大ベテラン。その新たなコンビが府中のマイル王決定戦を制したのである。
さらに武豊騎手は、ディープインパクト、キズナ、そしてシックスペンスと、父子三代にわたるGⅠ制覇を同一騎手で達成。競馬史に新たな1ページを刻む勝利となった。
各馬短評
1着 シックスペンス 武豊騎手
レース直前に決まったコンビでの勝利は、武豊騎手の見事なエスコートが光る内容だった。スタート後は逃げるワールズエンドを行かせて2番手で流れに乗り、終始その背中を射程圏に入れながらレースを進めた。
シックスペンスは高いスピード能力を持つ一方、道中で力む面を見せることもある。前走のマイラーズCでは戸崎騎手が手綱を抑えながら進めていたが、今回は武豊騎手がワールズエンドを視界に入れつつ、馬の首元に手を構えられる長手綱で折り合いをつけていた。今回着用したブリンカーの効果もあったのだろう。周囲を気にせず、前を追いかけることに集中させた競馬に見えた。

直線では一度内をうかがう場面もあったが、ワールズエンドの進路取りを確認してから馬場の外目へ誘導。逃げ馬を外から捉えにいく判断が、最後のクビ差につながった。厩舎カラーのブリンカーと、折り合える鞍上を味方につけた、見事な復活のGⅠ初制覇だった。
2着同着 ワールズエンド 津村明秀騎手
前走の京王杯スプリングCは津村騎手とのコンビで逃げ切り勝ちを収めたワールズエンド。その勢いで安田記念に挑んできたが、東京開催も進み、差し馬が台頭することも多い舞台だけに、200mの距離延長で再び粘り込めるかがポイントだった。
レースではスタート後に積極的にハナへ立ち、自分のリズムで流れを作った。後続にせかされることなく、津村騎手とともに直線の攻防までマイペースを守れたことで、展開を最大限味方につけることができた。
直線に入っても余力は十分。シックスペンスに外から迫られても簡単には止まらず、最後まで粘り込んで同着2着を確保した。勝ち馬にこそクビ差交わされたが、レースの流れを掌握した内容は見どころ十分。津村騎手の積極策と、ワールズエンドの持続力が見事に噛み合った好走だった。

昨年の夏は1400m戦を走っていた馬だが、この走りでマイル戦でもかみ合えば逃げ切れる可能性も示した。
サマーマイルシリーズや秋の富士Sで、再び逃げての好走を見ることができるかもしれない。
2着同着 ガイアフォース 横山武史騎手
中団やや後ろで流れに乗り、直線では馬群の外へ持ち出して末脚を伸ばした。上がり最速の脚でゴール前はシックスペンス、ワールズエンドへ迫り、同着2着まで追い上げている。中団より後ろから差して上位に入ったのはガイアフォースのみで、この馬の位置が勝負になるギリギリのポジションだった。
セントライト記念で重賞初制覇を果たしているように中距離戦にも対応可能で、ハイペースを前で受ける競馬も、後方から差す形もできる器用な馬だ。それだけに、今回は先行勢に主導権を握られたことが惜しまれる一戦でもあった。

7歳を迎え、白さを増した馬体でまたしてもGⅠの頂点へあと一歩まで迫った内容は、この馬の地力の高さを改めて示すものだった。シックスペンスと同様、芝ダートを問わず走れる馬だけに、夏以降もまだまだチャンスはあることを示した2着だった。
4着 セイウンハーデス 幸英明騎手
昨年のエプソムCを1分43秒9の東京芝1800mレコードで駆けたセイウンハーデス。
これまでは2000m前後を中心に使われてきたが、大阪杯5着の後、この春3走目として安田記念へ照準を定めてきた。
好スタートから先行集団につけ、道中はシックスペンスを見る位置で追走。3コーナーから徐々に進出し、直線でもワールズエンド、シックスペンスを追いかける形でしぶとく脚を使った。最後は上位3頭との接戦にわずかに及ばなかったが、4着でも内容は十分だった。

折り合いが鍵になる馬ではあるが、リズムよくスピードに乗れば、今回のように直線で目一杯勝負ができる。馬場を問わず走れる強みもあり、前で流れを作る馬がいるレースでは、引き続き注目したい存在だ。
9着 トロヴァトーレ ルメール騎手
東京新聞杯、エプソムCと東京で重賞を連勝し、勢いを持ってGⅠへ挑んだ一戦だった。
今回は後方3番手から末脚勝負を選択したが、前でワールズエンドとシックスペンスが流れを作る展開。
ガイアフォースより後ろで構えた組には、流れが向かなかった印象だ。
それでも上がりはガイアフォースに次ぐ33秒1を記録しており、直線でも外へ進路を取って脚を伸ばしている。上位争いまでは届かなかったものの、東京で見せてきた切れ味や充実ぶりが否定される内容ではない。
年始の京都金杯でも上がり最速の4着があり、マイル適性は十分に示している。今回は展開ひとつの面も大きく、秋のマイルCSでの巻き返しを楽しみに待ちたい。
レース総評
今年の安田記念は、王者不在のマイル路線に新たな主役が誕生する一戦となった。
結果的に前で流れを作ったワールズエンド、これを射程圏に入れ続けたシックスペンスがレースを支配し、後方勢には厳しい展開となった。
その中で勝利を掴んだシックスペンスは、転厩初戦、新たな鞍上、ブリンカー着用と、いくつもの変化を味方につけた。逃げるワールズエンドという目標がいたことも大きかったが、その流れに乗り、折り合い、直線で外へ持ち出して差し切った武豊騎手の判断は見事だった。

ガイアフォースは上がり最速でまたしてもGⅠタイトルへあと一歩。逃げたワールズエンドも自らレースを作り、最後まで粘り込んだ。セイウンハーデスも先行勢の一角として力を示し、トロヴァトーレも展開が向かない中で末脚は見せている。それぞれが今後のマイル路線に向けて、確かな存在感を残した。
シックスペンスの馬名は、幸運を呼ぶ英国の6ペンス銀貨に由来する。そして母はフィンレイズラッキーチャーム。"幸運のお守り"を母に持つ馬が、幸運の象徴である銀貨の名を受け継ぎ、府中のマイル王決定戦でついにGⅠタイトルを手にした。新たな馬と陣営の”絆”が掴んだ勝利と言えるだろう。
ただし、この勝利は幸運を待っただけのものではなく、最後は自らの脚で勝負運を掴み取った。
幸運の6ペンス銀貨は、優勝レイをもたらして、東京競馬場の直線で確かに輝いていた。

写真:@pfmpspsm、s1nihs、ぼん(@Jordan_Jorvon)
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