[重賞回顧]真面目すぎた天才少女が課題を克服、4つ目の重賞タイトルをゲット~2022年・シルクロードS~

シルクロードSは、2ヶ月後に行なわれる高松宮記念の前哨戦。当初はオープン特別として行なわれ、高松宮記念(当時は高松宮杯の名称)がGIに昇格した1996年、重賞へと昇格した。

その昇格初年度の覇者フラワーパークが本番も連勝すると、以後も、このローテーションで高松宮記念に出走した数多くの馬が本番でも好走。2021年現在、高松宮記念の前哨戦の中では、最多の勝ち馬を本番へと送り込んでいる。

2022年も中京競馬場での開催となり、出走頭数はフルゲートの18頭。最終的に5頭が単勝10倍を切る混戦ムードの中、僅かの差で1番人気に推されたのはカレンモエだった。

父ロードカナロアと母カレンチャンは、現役時、ともに高松宮記念とスプリンターズSを制した超良血馬。自身はここまで重賞未勝利ながら、GⅢで2着3回とあと一歩のところまできており、今度こその重賞制覇なるか大きな期待を集めていた。

僅差でそれに続いたのが、4歳牝馬のメイケイエール。ここまで重賞3勝と高い能力を持ちながら、真面目すぎる性格ゆえ、前の馬を追いかけ過ぎる点が課題。それでも、スプリンターズS4着の実績は上位で、休み明けながら注目を集めていた。

少し離れた3番人気にナランフレグ。ゴールドアリュール産駒にしては珍しく芝を主戦場にし、最後、確実に伸びる強烈な末脚が武器。2年前の当レースでも3着の実績があり、今回は得意の左回りで中京競馬場が舞台。カレンモエと同様、重賞初制覇を狙っていた。

一方、4番人気に推されたのがエーポス。2度の長期休養があり、5歳馬ながらまだキャリア8戦と大切に使われている。前走のラピスラズリSは7ヶ月ぶりの実戦で、なおかつ初のスプリント戦。それでも、直線で強烈な末脚を使って快勝し、今回は連勝と重賞2勝目が期待されていた。

そして、5番人気に続いたのがジャンダルム。当初は1600m~2000mで活躍していたものの、スプリントGIを2勝した母のビリーヴをなぞるように、4走前1200m戦に初出走。その春雷Sを快勝後は、一貫してスプリント戦に使われている。今回はデイリー杯2歳S以来、実に4年2ヶ月ぶりの重賞制覇が期待されていた。

レース概況

ゲートが開くと、横一線のきれいなスタート。前へいく構えを見せたのは、レジェーロ、ビアンフェ、カレンモエ、メイケイエールの4頭で、最終的にビアンフェが先手を切った。8枠のジャンダルムとサヴォワールエメがこれに続き、上位人気馬ではエーポスが11番手。ナランフレグは、後ろから4頭目を追走していた。

600m通過は33秒6の平均ペース。先頭から最後方までは12~3馬身の隊列となり、ビアンフェが快調に飛ばす展開となる中、あっという間に直線の攻防へと移った。

直線に向くと、すぐにジャンダルムが先頭に並びかけるも、2頭の間を割ったメイケイエールが、残り200mの手前で先頭に躍り出た。馬場の中央から追ってきたのは、ホープフルサイン、カレンモエ、シャインガーネットの3頭。さらに大外から、ナランフレグも勢いよく追い込んでくる。

それでも、前を行くメイケイエールの末脚は最後まで衰えず、混戦の2着争いを尻目に、拍手に迎えられながら、見事1着でゴールイン。シャインガーネットが1馬身差の2着に入り、ナランフレグがクビ差で続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分8秒1。課題を克服したメイケイエールが、古馬との戦いを初めて制し重賞4勝目。初のGI制覇へ向け、好スタートを切った。

各馬短評

1着 メイケイエール

内枠有利のコースながら、本馬にとっては諸刃の剣になりかねない2枠3番からのスタート。これが最初の課題だった。枠入りこそ少し嫌がったものの、発馬を決めて1つ目の課題をクリア。さらに、道中は自身の前に3頭いたものの、これらを追いかけることなく2つ目の課題もクリアし、直線で早目先頭に立つと危なげなく押し切った。

この中間、立て直しを図った陣営は、パシュファイヤーや折り返し手綱を使用するなど馬具を工夫。気性難ではないことが、かえって難しかったかもしれないが、その苦労が見事に報われる結果となった。

次走の予定は出ていないものの、高松宮記念に出走するのであれば、そこは父ミッキーアイルが2度惜敗した舞台。愛娘が雪辱を果たすか注目される。

2着 シャインガーネット

ここまでの全3勝中2勝は左回りで、重賞を制したファルコンSも中京競馬場が舞台。それ以来、およそ2年ぶりの連対を果たした。

一時は、大敗しない一方で掲示板に載れず、ダート戦に出走するなど適性を見極める時期もあった。ただ、前走と今回の結果を見る限り、やはり左回りの1400m以下が最適なよう。賞金面で出走が微妙だが、高松宮記念に直行した際は注目したい。

3着 ナランフレグ

こちらも、左回りと中京競馬場が得意な馬。4走前から連続して10着に敗れたものの、これで3戦連続3着内に好走。6歳にして、いよいよ本格化の兆しを見せている。

ダートでは、日本競馬史上最高クラスの名種牡馬だったゴールドアリュール。現4歳世代がラストクロップではあるものの、その世代の現役馬は中央、地方合わせて3頭のみ。現5歳世代が、実質的なラストクロップといえる。

偉大な父が、この世を去って間もなく5年。ナランフレグが、芝の重賞やGIを勝てば、これ以上ないほどのドラマとなるだろう。

レース総評

前半600m通過が33秒6で、後半600mは34秒5と短距離戦らしい前傾ラップ。勝ちタイム自体は、取り立てて優秀ではないものの、2着シャインガーネットから6着エーポスまでは、中団より後方に位置していた馬たち。4番手から早目先頭に立って押し切ったメイケイエールの内容は、価値あるものだった。

もちろん、メイケイエールが次走以降も同じように前を追いかけずに走るという保証はない。しかし、もし今回と同じ走りができれば、大レースを勝っても全く不思議ではない。

少し話は逸れるが、現代の競馬は、以前よりも個性派が少ないといわれることがある。しかし、現4歳世代の牝馬には個性派が多く、同じ一族のソダシとともに、メイケイエールにもファンは多い。そして、日曜日の東京10レースを勝利したリフレイムもまた4歳牝馬で、デビュー戦の勝ち方から常に動向が注目されている。

これらの馬に携わる厩舎、牧場関係者、そして騎乗する騎手にとっての日頃の苦労は、計り知れないほど大きなものだろう。それでも、それぞれの課題を克服してさらなる飛躍を遂げた3頭が同じ舞台で激突すれば、いっそうの盛り上がりを見せることは間違いなく、想像するだけでも楽しみは尽きない。

写真:るいす

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