[重賞回顧]疾風のごとく、みちのくの直線を一人旅~2021年・福島記念~

2021年で57回目を迎える、伝統の福島記念。ローカルのハンデ重賞=波乱の決着をイメージしがちだが、近年は意外にも荒れていないのが、このレースの特徴といえる。

出走頭数は16頭で、重賞勝ち馬が半数の8頭。さらに、それ以外の4頭にも重賞2着の実績があった。人気は割れ、最終的に単勝オッズ10倍を切ったのは6頭。その中で、1番人気に推されたのはアラタだった。

初勝利は、昨年の1月。その後、2勝目を挙げるのにやや手間取ったものの、この春、久々に勝利すると、そこから一気に3連勝。さらに、前走のオープン・ケフェウスSも勝利し、見事4連勝を飾った。重賞挑戦は、昨年の青葉賞以来およそ1年半ぶり。重賞初制覇と5連勝なるか、注目を集めていた。

2番人気は、ココロノトウダイ。重賞を勝ちの実績はないものの、年始の中山金杯では2着と好走した。その後、骨折が判明して休養し、前走のオクトーバーSで復帰。今回は、いわゆる叩き2戦目で上積みが見込め、福島コースも4戦3勝2着1回と相性抜群。悲願の重賞制覇を目指していた。

3番人気に推されたのは、ステイフーリッシュ。ここまで通算2勝とはいえ、GⅡ勝ちの実績はメンバーで唯一の存在。その京都新聞杯以来、3年半、勝利から遠ざかっているものの、重賞で2、3着が計12回ある堅実派。2年前の当レースでも2着と好走しており、2つ目の重賞タイトル獲得なるか注目されていた。

以下、昨年の2着馬ヴァンケドミンゴ、前走大逃げでオクトーバーSを勝利したパンサラッサ、小倉記念2着の実績があるヒュミドールの順で、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ゴールドギアがあおったものの、それ以外はほぼきれいなスタート。まず飛び出したのは、パンサラッサとコントラチェック、そしてディアンドルの3頭。中でも、パンサラッサがその争いを制し先頭に立った。

3番手のディアンドルから、4馬身開いてステイフーリッシュが追走。さらに、10馬身ほど開いた5番手にフェアリーポルカ。そして、また3馬身開いたところにヒュミドールが続き、以下11頭が一団となって向正面に入った。

前半の1000mは、なんと57秒3のハイペース。先頭から最後方までは5秒弱の差があり、おそらく距離にして70mほど。他の上位人気馬は、ヴァンケドミンゴがこの一団の3番手。アラタがその2馬身後方を追走し、ココロノトウダイは、後ろから2番手でレースを進めていた。

3コーナーから差が少しずつ詰まりはじめたものの、残り600m地点でも、先頭から最後方まではおよそ3秒の差。依然、パンサラッサは快調に逃げ、4コーナーでコントラチェックを振り切るように再加速。そのまま、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、パンサラッサのリードは再び広がり、後続とは6馬身。2番手にディアンドルが上がったものの、コントラチェックと同様、こちらも末脚はほとんど残っていない。

そこへ襲いかかってきたのが、ステイフーリッシュとヒュミドール、さらに、アラタとエフェクトオンの4頭だった。しかし、残り200mで前との差は逆に8馬身へと広がり、4頭で懸命に前を追ったものの、時、既に遅く、差を半分に詰めるのが精一杯。

結局、パンサラッサが2着に4馬身差をつける完勝で、1着ゴールイン。混戦の2着争いを制したのはヒュミドールで、半馬身差の3着にアラタが入った。

良馬場の勝ちタイムは1分59秒2。気持ちよく逃げたパンサラッサが、完璧なレースで2連勝。見事、重賞ウイナーの仲間入りを果たした。

管理する矢作調教師は、ブリーダーズカップの2勝を合わせると、2週間で重賞4勝目。所有する広尾レースとのチームでも、2週連続重賞制覇となった。また、ロードカナロア産駒は、グレード制導入以降、史上11頭目となる全10場重賞制覇を達成した。

各馬短評

1着 パンサラッサ

福島競馬場をハイペースで逃げた馬といえば、ツインターボの七夕賞が思い出される。当時と馬場の違いはあるものの、奇しくも、1000mの通過タイムや勝ち時計はよく似ていた。また、4コーナーから後続を待たず早目にスパートし、押し切る展開もそっくりだった。

もちろん、この勝利を演出した菱田騎手の好騎乗は見逃せない。レース後のインタビューでは語ったことは、「ペースは速いと分かっていたが、馬の邪魔をせず、気持ちよく走らせようと思った」ということ。馬自身の成長もあるが、レースにおいて、いかにメンタルの部分が重要かということだろう。

一方、血統に話題を向けると、キングカメハメハを持つ馬の連対は直近5年で4頭目。サドラーズウェルズを持つ馬も、3年連続で馬券圏内に好走している。

2着 ヒュミドール

キングカメハメハやサドラーズウェルズも強いが、ステイゴールドを持つ馬が強いのも福島記念の特徴。2017年から直仔が3連覇を果たし、昨年と今年は、オルフェーヴル産駒が2年連続連対を果たした。

ヒュミドール自身は、やはりローカルの小回りコースで、底力や持久力が問われる展開となったときに持ち味が出そう。直線が長い中日新聞杯よりも、小倉大賞典でより良さが活きそうなイメージがある。

3着 アラタ

久々の重賞挑戦、そして古馬混合の重賞初出走ということを考えれば、勝ち馬が強すぎただけで、十分好走したといえる内容。

こちらは、キングカメハメハの直仔。前走のケフェウスSと同じ舞台で行われる中日新聞杯に出走すれば、再び好走するシーンが見られるのではないだろうか。

レース総評

前半の1000mが57秒3で、後半1000mは1分1秒9。
最後の1ハロンは13秒1とかかったものの、パンサラッサの完勝だった。

母系の良さを引き出すのが、種牡馬ロードカナロアの特徴。パンサラッサは、母の父がモンジューで、その父がサドラーズウェルズ。同じような組み合わせに、2020年の目黒記念を勝ったキングオブコージがおり、こちらは母の父がガリレオで、その父がサドラーズウェルズという血統構成になっている。

パンサラッサに話を戻すと、父ロードカナロアから受け継いだスピードと、母系に脈々と流れるスタミナの両方を存分に発揮。今回に関しては、後続に何もさせない素晴らしいレース内容だった。

メンタル面の充実があってこそのこのレーススタイルだとしたら、ここで一度休養となるだろうか。いずれにせよ、この先どのレースに出走しても楽しみであることは間違いのないところ。

また、こういった個性派の登場によって競馬がますます盛り上がり、ファン層が拡大するための一助となることを願うばかりだ。

写真:横山チリ子

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