[牝系図鑑]16年ダービー馬マカヒキの牝祖。パワーと高い操縦性を誇るリアルナンバー牝系。

サイアーラインや近親交配を中心に語られることが多い血統論だが、牝系を通じて繋がるDNAはサラブレッドの遺伝を語る上で非常に重要な要素だ。
この連載では日本で繁栄している牝系を活躍馬とともに紹介しその魅力を伝えていく。
今回取り上げるのはマカヒキやウリウリなどを輩出したリアルナンバーの牝系だ。

成長力があり、一瞬でピッチを上げられるのが長所のリアルナンバー牝系

代表馬
・マカヒキ(16年ダービー馬)
・ウリウリ(14年京都牝馬S、15年CBC賞)

リアルナンバー

アルゼンチンで生産されたリアルナンバー、競走馬としてはヒルベルトレレナ賞(G1・ダート8F)を勝利するなど一流の牝馬だった。またその母Numerariaも亜G1馬だったという血統背景の良さもあって、現役引退後ノーザンファームが繁殖牝馬として導入。

今でこそマカヒキやウリウリら孫世代が走ったこともあり名牝系の牝祖としての地位を確立したが、直仔の成績は可もなく不可もなく。JRA複数勝利馬はコンスタントに輩出するが、重賞級が現れなかった。

もちろんJRA複数勝利馬をコンスタントに輩出するということは素晴らしいことなのだが、現役時代の実績や導入当時の期待感からすれば物足りないのも事実だろう。

リアルナンバー牝系のよく見られる特徴は三点。

一点目は成長力の高さ。
リアルナンバー自身G1を制覇したのは4歳になってから。マカヒキがダービー制覇後凱旋門賞に挑戦し、古馬になってから不振に陥ったこともあり早熟と思われる方もいるかもしれないが、きちんと8歳時に京都大賞典を勝利している。またマカヒキの話をする際に詳しく書くが、これができたのは成長力のなせる業だろう。
ウリウリにしても古馬になってから本格化、5歳シーズンはもう一段階の成長を見せた。

二点目は操縦性の高さ。
これはリアルナンバーの母父がサザンヘイローであることも影響していそうだ。
マカヒキの勝った16年ダービー、ウリウリの勝った15年CBC賞、いずれも4コーナーから仕掛けるといったわけではなくて、進路を探しながら一気に追い出しての勝利といった内容だった。一方持続性能の高い馬や大味な競馬で勝ち切る馬を作るには少々配合に工夫が必要かもしれない。
マカヒキのダービーにしてもサトノダイヤモンドの内を割って一瞬にして突き抜けるかと思われたが、最終的にはハナ差の大接戦。内を割る直前ではサトノダイヤモンドの方が脚色優勢であり、ゴール前の数完歩もそれは同じだった。まさしくリアルナンバー牝系の馬らしい勝ち方のダービーだったと言える。

もっとわかりやすい例で言えばリアルナンバーのひ孫にあたるゾンニッヒ(父ラブリーデイ)が勝った23年若潮Sや、2着だった東風S。いずれも直線半ばの勢いは突き抜けるくらいの脚色だったが、前者は辛勝、後者は惜敗だった。
※東風Sは菅原騎手がムチを落としたのもある

ラブリーデイをつけてもこれだから、要は脚の使いどころが非常に重要なタイプが多いということだろう。

三点目は優れたパワーだ。
ウリウリの勝った15年CBC賞もかなりタフな馬場だったが全く苦にしなかった。芝良の複勝率28.5%、芝稍重の複勝率33.3%、芝重馬場の複勝率37.5%とわかりやすい。
時計のかかるような馬場でもこなせるし、そもそもリアルナンバーがダート馬だったこともあって、配合次第ではダートタイプもたくさん出る。

マカヒキが種牡馬となり父系からも母形からも影響を与えるリアルナンバー

リアルナンバーの直仔からこそ重賞級の活躍馬は出なかったが、孫世代以降は重賞級の活躍馬が複数頭出ている。主に地位を確立したのはウィキウィキであることは間違いないが、ウィキウィキも含めて2本の枝から重賞級が出ているのでそれぞれ解説していく。

牝系図

①ウィキウィキ

ウィキウィキ

まずは何と言ってもウィキウィキだろう。ウィキウィキはフレンチデピュティ×リアルナンバーという組み合わせ通りダート馬に出て現役時はダート6Fで新馬勝ち。その後500万下(現1勝C)で4走するが2着3回とあと一歩届かず繁殖入りしている。

母リアルナンバーのもどかしい繁殖成績の鬱憤を晴らすかのように、ウィキウィキは素晴らしい産駒をたくさん輩出した。

ウリウリ・マカヒキ・ウーリリ等

主な活躍馬はウリウリ、マカヒキ、ウーリリの3頭。ご覧の通り3頭ともディープインパクト産駒だ。ディープインパクト×フレンチデピュティの相性が抜群に良かったということももちろん繁殖成績向上の一因である。しかし、母母がリアルナンバーであることも非常に重要な要素であったような印象もあって、しっかり機動力の高い産駒を輩出することに成功している。

マカヒキは3歳時、ウーリリは4歳春をピークとして成績は下降線を辿ったがウリウリだけは息の長い活躍を見せた。

これは牡馬と牝馬の違いが大きな要因ではないだろうか。マカヒキもウーリリも若い頃は柔らかいタイプの走りで持ち前の機動力を武器に大活躍したが、加齢とともに馬体もマッチョになりパワータイプにシフトしていった。これはディープインパクトが母を引き出しやすいタイプだったということもあるし、母父がフレンチデピュティだったこと、そもそも牝系がリアルナンバーだったことが組み合わさってのことだろう。

マカヒキが8歳時に勝利した21年京都大賞典は、レース自体の動きだしがかなり早くてラスト1Fは13秒も要した。マカヒキは4角の手応えも明らかに劣勢で瞬発力で勝ったレースではないことは明らかだ。しかし持ち前の機動力でかなり狭いところを無理やりねじ込んで最後はハナ差アリストテレスを差し切った。3歳時は父ディープインパクトの類まれなる瞬発力を借りてダービー馬となったかもしれないが、この京都大賞典こそリアルナンバー牝系としての真骨頂だった気がしてならない。

一方、ウリウリは牝馬が故にそもそも牡馬より柔らかい身体つきをしていた。従ってマカヒキやウーリリより成長曲線が後ろに来たと私は考えている。
人間でも女性の方が身体が柔らかいように馬も同様。アンドロゲンの作用とエストロゲンの作用がそれぞれの活躍時期の相違に繋がったのではないかと考えられる。

ウィキウィキの枝は既にリアルナンバーのひ孫世代が走りだしている。ウリウリの産駒からは20年もみじS、同年ダリア賞3着のジャカランダレーン(父ラブリーデイ)、マカヒキやウリウリの全姉にあたるエンドレスノットの産駒から23年ダービー卿CT3着、同年東風S2着のゾンニッヒ(父ラブリーデイ)が出ている。どうやらリアルナンバー×フレンチデピュティ→ディープインパクト→ラブリーデイは相性が良いらしい。

②ジュントップヒトミ

ジュントップヒトミ

リアルナンバー牝系で重賞級の馬を出した枝はウィキウィキ以外にもう一つある。それがジュントップヒトミ(父ゼンノロブロイ)だ。
ウィキウィキは04年産、ジュントップヒトミは13年産だからかなり年の離れた姉妹になるわけで、ジュントップヒトミの産駒はまだ走り始めたばかり。
実績がなくて当然だ。しかし、初仔であるジュンブルースカイ(父ドゥラメンテ)が早速20年東スポ2歳S3着の活躍を見せた。

ジュンブルースカイ

この活躍はリアルナンバーのDNAが優秀だったことの証明にあたるのではないだろうか。
ウィキウィキ産駒の活躍馬はみんなディープインパクト×フレンチデピュティ×リアルナンバーの形。これではディープインパクト×フレンチデピュティだから走ったと言われてお終いとなってしまってもおかしくはない。
しかしジュンブルースカイが出たことでそうではないことを少し証明できたのではないだろうか。

この枝はフレンチデピュティではなくゼンノロブロイが入ったが、本質的なところはそう変わっていなくてジュンブルースカイも操縦性の良いタイプ。1勝クラスを勝った時の内容なんかは舞台こそ違えど、16年ダービーに近いものがあった。

ジュントップヒトミはノーザンファームで繋養されているが、「ジュン」の冠名でお馴染みの河合オーナーの所有馬だ。従ってセリや一口クラブに流れてくることは早々ないかもしれないが、今後の活躍には要注目だ。

ウィキウィキの活躍は序章なのか

ウィキウィキが非常に優秀な繁殖牝馬だったためどうしても注目されがちだが、ジュントップヒトミのようにようやく産駒が走り始めたばかりの繁殖もリアルナンバーの直仔にはいる。カンデラの21ことレイデラルース(父レイデオロ)はセレクトセールで約4000万円で落札されDMMバヌーシーの所属となった。
すでにゾンニッヒがひ孫世代で結果を出しているように、今後も活躍馬が多数輩出される可能性は十分にあって楽しみな一族だ。芝からダート、クラシックディスタンスからスプリントまで多様なカテゴリーの産駒を作ることができるから、活躍の場も広いだろう。

写真:Horse Memorys

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