![[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]競走馬名決定!「ドコフクカゼ」(シーズン2-19)](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/05/20250826_DS_0397-scaled.jpg)

エクワインレーシングに行ったことをきっかけに、福ちゃんの競走馬名と所属厩舎をそろそろ決めなければならないと焦り始めました。迷っていても仕方ないので、物ごとを前に進めることにしました。
まずは競走馬名の登録です。公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナルのサイトから、ネット上で競走馬名を登録することができます。オーナーだけが持っている血統登録証明書に記載されているダートムーアの24の血統登録番号を入力し、希望の馬名に「ドコフクカゼ」、意味・由来には「病気や障害があっても、気にしないさま」、アルファベッド表記は「DOKOFUKUKAZE」とします。第3希望まで入力することはできますが、第1希望のみで申し込みボタンを押しました。1週間以内で審査の結果が通知されるとのことで、あとは連絡を待つのみ。
今回ばかりは、福ちゃんのYouTubeチャンネル上で真っ先に馬名を公表しようと考えていました。福ちゃんが碧雲牧場からエクワインレーシングに移動したことはX上で先出しになった形になり、チーム福ちゃんの皆さんを驚かせてしまったので、馬名だけはYouTubeチャンネルで公式に知ってもらおうと思います。
何と2日後に、「馬名登録が完了しました」という件名のメールが届きました。意外に早かったなと驚き、どこかからか情報が漏れてしまう前に、その日のうちにYouTubeチャンネルにてライブ配信で発表することにしました。緊急ライブという形を採り、懐かしい福ちゃんの映像を観てもらいながら、最後に「ドコフクカゼ」の名を公開したのです。
「漢字にすると、どこ福風となります。今までどおり福ちゃんと呼んでください!」
かつて碧雲牧場でそうであったように、微妙な反応だったらと心配しましたが、チーム福ちゃんの皆さまからは「福ちゃんにぴったりです」、「ジローラモさんの想いが込められていて素晴らしいです」など、おおむね賞賛の声をいただき、胸を撫でおろしました。
馬名の中にフク(福)が入っているのも良かったのだと思います。これで競馬場でも「福ちゃん!」と呼ぶことができます。福ちゃんは福ちゃんなのです。福ちゃんが生まれてからおよそ1年半、皆さんに見守られてようやく競走馬名を授けるところまで辿り着いたのです。
残されたミッションは厩舎決めです。
翌朝、初勝利を挙げたルリモハリモに「ありがとう」を伝えるために、張田厩舎を訪れました。朝5時に起きて6時のロマンスカーに乗り、新宿から東京へ、さらに京葉線に乗って、ディズニーランドのある舞浜駅を通り過ぎ、南船橋駅に7時半に到着しました。
3度目の訪問となり、僕も慣れて最短ルートを掴んできましたし、幸いにもこの時間は都心へ向かう波とは反対方向ということもあり、比較的、車内も空いています。南船橋駅から歩いて10分ほどで張田厩舎の前にやってきました。
厩舎のスタッフの方々も僕のことを覚えてくれているようで、「こんにちは」、「この前はおめでとうございます」と声をかけてくれます。馬主冥利に尽きますし、僕が走って勝ったわけでもないのですが、嬉しい限りです。
ひとりのスタッフさんが「そちらのベルを鳴らしてください」と張田厩舎の看板の横にある呼び出しベルを指さします。言われたとおりにベルを押すと、ピンポーンと音がして、中から女性がドアを開けてくれました。張田調教師の奥さまだと直感し、「いつもありがとうございます」とお礼を述べると、「それが仕事ですので。張田は今外に出ていて、戻ってくると思うのですが…」返ってきました。「あっ、全然良いですよ。待ちますから」と言ったそばから、張田調教師が現れました。
僕は奥さまに頭を下げ、張田調教師に「今日はお忙しい中ありがとうございます」と言うと、「これから犬の散歩に行ってきていいかな?」と返ってきたので、また張田先生は自由だなと思って苦笑いを浮かべながら、「どうぞ、僕は先にルリモハリモの馬房に行っていますね。また後ほど」と僕が馬房に向かおうとすると、張田調教師が何か言いたげです。もしやと思って、「もしかして戻ってこないのですか?」と聞くと、何も返ってこないので、どうやらそうらしい。
馬主がはるばる2時間かけて厩舎を訪ねてきたのに、犬の散歩に行くから適当に馬を見てくださいなんていう調教師がどこにいるでしょうか(笑)。そんなつれない態度を取られても、それでもなぜか憎めないのが張田先生なのです。
張田厩舎からの帰り道、僕はふと、今から15年以上前に参加させてもらった、とある厩舎の忘年会のシーンを思い出しました。かつてジョッキーとしてならした大御所とされる調教師が切り盛りするこの厩舎は、その年不振を極めていて、年間でひと桁の勝利数しか収めることができていませんでした。
それでも、その調教師の人徳の賜物なのでしょう。たくさんのジョッキーや関係者が集い、終始なごやかなムードで会は終盤を迎えた(ように私には思えました)。そして、最後に、社台グループの吉田照哉氏が壇上に登場し、締めの挨拶を行ないました。
「社台グループはうまいことやっていると思われているようだけど、私たちにもいつどうなるか分からないという時期があった。それもつい最近まで」という前提から始まり、「だから今は、爪の先まで厩舎のためにという想いを持って、皆で頑張ってほしい」というエールが送られ、最後は恒例のジャンピング1本締めで会はお開きとなりました。
誰もが思い思いにその場から離れようとしている中、とある馬主さんが助け舟を出そうと、「来年は社台の馬を4,5頭入れてくれるってよ、ねえ」と吉田照哉氏にけしかけました。吉田氏は他の人から話しかけられていて、聞いているのか聞いていないのか分からない様子でしたが、当の調教師は「いやー、そんなに入れてもらっても馬房が一杯になっちゃうなあ」などと茶化すようなことしか言いません(照れ隠しだったのでしょう)。傍から見ていても、じれったい空気が数秒続いたその時、ある女性がきっぱりとした声で調教師に告げたのです。
「頭をさげなさい!」
私だけではなく、その場にいた、その声を聞いた誰もが驚いたに違いありません。その女性は奥様なのでしょうか、調教師と近い距離にいる人に違いはないのですが、皆の前でそこまで言ってしまうなんて…。ところが、その声を聞いて、調教師は我に返ったように、頭を下げました(斜め30度ぐらいと、いささか不慣れでぎこちない傾斜ではありましたが)。吉田氏はそれを見ていたかどうか分からず、結局、その場でしっかりとした約束には至らないまま、場は流れてしまいました。
美しいシーンを見たと僕は感じました。これまで鞭一本で身を立ててきた騎手が引退したのち、調教師として全く別の道を歩み始め、上手く行っていた時期もあったが、いよいよ厩舎経営に行き詰まってしまう。長らく頭を下げたことのない人間が頭を下げなければならない、プライドを打ち砕かれるような状況に陥ったのです。それでも、一家の長として、経営者として、どんなことをしてでも再建しようと決意していたのでしょう。
今は栄華を誇る社台グループの吉田一族でさえも、かつてどれだけ人に頭を下げてきたのでしょうか。苦しいとき、私たちには、頭を下げることも必要です。それさえできないのであれば、日本競馬の底上げなど夢物語にすぎないどころか、もはや自分たちを救うことさえできません。たとえ頭を下げてでも再建しよう、成し遂げようという強い決意とそれを支える地道な努力が問われているのです。自分のプライドと戦いながらも頭を垂れた調教師の姿に、僕は暗さや哀しさではなく、未来への明るさと希望を見ました。
この調教師と張田調教師とは話が違うかもしれませんが、長年、馬に跨って勝たせる職人として生きてきた人間が、たとえ同じ世界とはいえ、いきなり厩舎のマネジメントや馬主への営業などを求められても困惑してしまうのです。騎手から調教師へと上手に切り替えて、器用にこなす人もいますが、そうではない人も多いはず。人間はそう簡単には変われませんし、不器用だからこそ、騎手としての技術を一途に磨くことができたとも考えられます。
張田先生は調教師に転身してからも、およそ10年間にわたって通算で469勝(2025年11月27日現在)を挙げ、勝率17.1%、連対率31.5%という素晴らしい成績を挙げています。今年(2025年度)こそ、現時点で27勝、勝率11.7%、連対率29.9%と数字上は下げていますが、ルリモハリモが成長する来年は再び上昇するに違いありません(笑)。僕としては、こうして得た縁を大切にしていきたいと願いますが、どうしても福ちゃんを預けるとなると引っ掛かりがあるのも本音です。
エクワインレーシングの松田マネージャーに、「福ちゃんの競走馬名が決まりました。競走馬名は「ドコフクカゼ」です。よろしくお願いいたします」とLINEを送りました。松田さんからは、「素敵な名前だと思います」と返ってきました。
(次回へ続く→)

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