[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]ほんとうにこれだけの差(シーズン2-21)

自宅近くのコンビニのコピー機の前で僕は迷っていました。明後日に出走するルリモハリモの馬柱をプリントアウトするべきか否か。南関東競馬の競馬新聞は、レースの2日前にはコンビニで手に入れることができるのです。デビュー戦の馬柱は当日、チーム福ちゃんのひとりハナケイエールさんからいただきましたし、2戦目となった前走は前の日の晩に張田厩舎からFAXで送られてきました。

ここまでの2戦は、相手関係云々ではなく、まずは無事に出走し、ルリモハリモの力を出し切って走ってくれたら結果はついてくると思っていたので、あえて競馬新聞を買うことなくレースを迎えることができたのでしょう。ただ今回は、クラーベセクレタ・メモリアル(2歳牝馬選抜)ということで、来年の南関東牝馬クラシック戦線に向けて、船橋競馬からの代表牝馬を決めるような意味を持つレースになります。相手関係もグッと厳しくなるということです。

とはいえ、牝馬同士のレースであることを僕は好意的に捉えていました。450kg台のやや小柄なルリモハリモにとって、牝馬同士であれば馬格負けすることが少ないからです。さらに今回、距離が1500mに延びることはプラスに働くと考えていました。

ここまでの2戦を見る限り、好スタートから好ダッシュを決め、前々でレースを進めていたものの、最後の直線でビュンと伸びる感じではありません。終いが切れるタイプではなく、2戦目ではコンスタントに12秒台を刻んだように、スピードの持続力がありそうという感触を得ていました。

張田厩舎や所蛍騎手がどう考えているかは分かりません。あくまでも外からレースぶりを見ての僕のルリモハリモ評にすぎません。さすがに1600mを超えるような距離になると未知の領域ですが、マイルまでであれば距離は延びた方が、ルリモハリモの地脚の強さを生かすことができるのではないでしょうか。

そんなこんなで、僕の期待の表れでもありますが、客観的に見た評価(位置づけ)を知りたいという欲求に抗いきれなかったのです。実は、南関東競馬のHPで出走表だけは先に見てはいました。14頭のフルゲートになりそうなこと、前走のデビュー戦を圧勝した馬や門別競馬から移籍してきた馬などがいること、そしてルリモハリモは4枠6番という絶好枠であることは知っていました。僕が本当に知りたかったのは、ルリモハリモにどれだけ印が付いているのかということです。

コンビニのコピー機に500円玉と50円玉を1枚ずつ投入し、競馬新聞のプリントボタンを押し、12月9日(火)船橋開催の「勝馬」を選ぶと、第1レースから順番に馬柱がプリントアウトされてきます。最終レースまで出終わったのち、僕は紙の束を両手に抱えて外に出ました。

外は暗くなっていますが、新聞を読むには十分な光が店内から射してきています。他のレースには目もくれず、第7レースのルリモハリモの馬柱を見てみると、何と△印が3つしかついていません。6名中3名が無印であり、その他3名も連穴という扱いです。

正直に言うと、2、3番人気ぐらいではないかというのが僕の見立てでした。1番人気には社台コーポレーション白老ファーム生産のキャロットクラブ所属、川島正一厩舎のバイラノーチェが推されることは何となく分かっていましたが、門別競馬で5戦2勝の戦績を引っ提げてやってきたスターオブフェザーとどっこいどっこいの評価ではないかと分析をしていました。スターオブフェザーは移籍初戦で力関係こそ分からないものの、この時期の牝馬としては立派な480kg台の馬格があり、パワーという点ではルリモハリモより上です。ところが、デビュー戦で負かしているプラウドブルームよりも印が軽いのですから、僕の主観的な評価と専門紙の記者たちの客観的な評価の間にずれがあることを認識し、少し落胆しました。これが現実なのです。

もっと言うと、僕の中では今回1番人気に推されるであろうバイラノーチェとの戦いになると妄想していました。というのも、さかのぼること1年半ほど前、ルリモハリモがセレクションセールで主取りになり、手術をしてからオータムセールに臨んだにもかかわらず再度、誰一人として手を挙げてくれる人はおらず、ルリモハリモの価値が分からなくなったことがありました。

NO.9ホーストレーニングメソドの木村さんは「二束三文で売る馬ではない」とおっしゃってくれましたが、主取りということは誰にとっても価値がなかったという事実でもあります。セレクションセールは700万円、オータムセールは500万円と僕が設定したリザーブ価格も間違っていたということですし、2度も主取りになった後は、事前に300万円や500万円というオファーを受けておけば良かったと後悔したものです。そんな僕にとって、ルリモハリモはもっと価値のある馬だと信じさせてもらった基準のひとつが、バイラノーチェ(当時はバイラオーラの23)の存在でした。

僕はキャロットクラブの会報誌にコラムを書いている関係で、一口馬主としての活動はフェードアウト気味の中でも、キャロットクラブの募集馬に関してはひと通り目を通すようにしています(つい出資してしまうのが玉にキズ)。2024年募集馬ラインナップの中に、同じニューイヤーズデイ産駒で地方募集のバイラオーラの23がいて、かつ母バイラオーラは中央4勝馬とダートムーアと同じような競走成績です。やや小柄なのは母の影響であり、コンパクトにまとまった馬体はルリモハリモと似ていて、むしろルリモハリモの方が将来的にはサイズが出るのではないかと感じました。2頭の馬そのものを比べると、遜色ないということです。そのバイラオーラの23が2000万円で募集されているのを見て、やはり僕がルリモハリモの価値を見誤っていたわけではないと、自分に言い聞かせたものです。

まさかその2頭がこうして船橋競馬のクラーベセクレタ・メモリアルで顔を合わせるとは。当時は生産が社台コーポレーション白老ファームか碧雲牧場かの違いだけでしたが、あれから1年が経ち、バイラノーチェとルリモハリモは違う環境で育ち、ここに至ります。つまり、今回はバイラノーチェとルリモハリモの対決だけではなく、育成したノーザンファーム空港牧場とNO.9ホーストレーニングメソドのそれであり、川島正一厩舎と張田京厩舎のそれでもあり、岡村健司騎手と所蛍騎手の対決でもあるのです。そしてもちろん、キャロットクラブと僕の対決でもあります。ダビデとゴリアテ。大手の有名どころに一泡吹かせるチャンスです。

主観と客観の評価を行き来しながら、いよいよ当日を迎えました。午前中はどうしても外せない用事があり、開門時刻に間に合いそうにありません。少し遅れて到着し、レースとレースの合間に横断幕を取り付けることにしました。これまでも横断幕の貼り付けを手伝ってくれたチーム福ちゃんの皆さまは「私たちは先に行っていますので、いらっしゃったときにご連絡ください。一緒に取り付けしましょう」と言ってくれました。まだ福ちゃんはデビューしていないのに、お姉さんのルリモハリモの応援に毎回来てくださって、感謝しかありません。レースの勝ち負けにかかわらず、僕は福ちゃんのおかげで素敵な縁をいただいているのです。

15時に南船橋駅に到着し、速歩で競馬場に向かいます。キャロッタ門をくぐると、キッチンカーが左右に並んでいて、その先にパドックが見えてきました。ハナケイエールさんたちはパドックの砂かぶり席で待っていてくれました。「来年の南関東競馬のカレンダーが配られていて、なんと1月はムエックスでしたよ。多めにもらってきたので、碧雲牧場さんに渡してください」と言ってくださいました。12月しかないうちの1月の写真を飾るなんて、ムエックス凄い。「ルリモハリモは載っていましたか?」と無茶ぶりすると「まだですね、来年には」としっかり返してくれます。

第3レースの出走馬がパドックを去ってゆくのを見届け、僕たちは横断幕の取り付けにかかりました。ただ今回は時間が遅いこともあり、馬たちが登場するパドックの入口に近いところではなく、少し離れた場所にしかスペースがありません。ルリモハリモが「あれっ、いつも私の横断幕がある場所にない。もしかすると今日は誰も見に来てくれてないの?」とがっかりさせてしまわないか心配ですが、僕が来るのが遅かったのだから仕方ありません。

警備員の方々もすぐに気づいてくれて手伝ってくれます。こうして横断幕を取り付けるだけでも、自分ひとりでは何もできず、誰かの力を借りなければできないのです。今回初めてレースとレースの間に取り付けなければならず、緊張感はありましたが、たくさんの人たちに助けてもらったおかげで、あっという間に横断幕はピシッと張られました。

先に確保してもらっていた一般席に座り、続々と集まってきたチーム福ちゃんの皆さまと歓談しつつ、フランスのお土産という高級そうなチョコをつまませてもらいながら、第7レースを待ちました。冬至も近いこの時期は、あっという間に日が落ちてゆき、ガラス越しに見る競馬場の景色はまるで絵画のように美しく移り変わっていきます。前走で初勝利を挙げたあと、いつかこうした遅い時間に行われるレースに出走できるといいなと夢見ましたが、まさか次のレースでこうなるとは思いませんでした。それだけ、今回はジャンプアップの一戦であることを意味します。

気がつくと、第6レースの出走馬たちがパドックを周回しています。「そろそろ行きましょうか」と声をかけ、僕たちは第7レースのパドックへと向かいました。ルリモハリモはどのような姿で登場するのか、そして他の馬たちはどうなのか?カメラを片手に構えながら、夜は寒くなって手が少しかじかむような感じもありつつ、光り輝く舞台に現れるルリモハリモをひたすら待ちました。

ルリモハリモは相変わらずの好馬体を誇っているように映りました。いつもどおり二人引きではありますが、大きく入れ込むこともなく歩けています。恐る恐る馬体重を確認すると、443kgと8kg減らしています。馬体重は調子のバロメーターです。あわよくば前走からさらに調子が上向いていることを期待していましたが、現実としてはやや下降気味であることが数字から伝わってきます。牝馬はこの寒い時期に馬体重を減らす傾向にありますが、それでも今まで積み上げてきた貯金が一気になくなったような気持ちがしました。きっちり仕上がったという解釈もできますが、同時にお釣りのない状態ということです。勝ち負けにかかわらず、このレースが終わったら放牧に出すべきタイミングが来たことを悟りました。

こうして見ると、ルリモハリモは他の牝馬と比べても体高があり、443kgの馬体には見えません。今年の2月に浦和競馬にて行われたユングフラウ賞のパドックで見た、ニューイヤーズデイ産駒のプラウドフレール(桜花賞馬)に近いシルエットです。父ニューイヤーズデイは体高が159cmと低く、産駒も体高の高くない馬が多い中、プラウドフレールはスラッと高く、その分、馬体重も当時479kgと十分にあって、良く見せた牝馬でした。ルリモハリモも全体のシルエットは遜色ないので、全体的に実が入り、幅が出てくると、470kgまでは増えるのではないでしょうか。

張田先生も「飼い葉は食べているんだけど、ピリピリしているから(馬体重が)減っちゃうんだよね」とおっしゃいます。飼い葉を食べれば良いという単純な話ではなく、食べても実にならないことがあるのです。そういえば、僕も高校生の頃、プロ野球選手になりたくて、最低70kgまで体を大きくしたいと頑張って食べていましたが(どれだけ小柄に見えるプロ野球選手でも70kg以上はあったので)、どうしても59kgで止まってしまい、60kgの壁さえ破れませんでした。今は何もしなくても70kgを楽々と超え、逆に60kg台に戻すのが不可能になっているのですから、不思議なものです(笑)。ルリモハリモもいつかは絞れなくて困るような時期がやってくるのでしょうか。

山田厩務員や所蛍騎手にアイコンタクトで「よろしくお願いします」とメッセージを送り、僕たちも本馬場へと向かいました。正直に言うと、僕には勝算がありました。スタートダッシュを決めて、ハナに立つことができれば、そのまま押し切れる可能性が高いと考えていました。この日の船橋開催は僕が見た第3レースと第6レースは逃げ切り勝ちの決着で、第5レースも逃げた馬が2着に粘ったように、分かりやすい前残りの馬場に見えました。

さらにライバルとなるであろうバイラノーチェは返し馬でクルクル回って騎手を落とそうとしたり、かなり難しいところをみせています。スターオブフェザーも転厩初戦ということもあってか、マイナス8kgの馬体重が示すとおり、活気がないというか、調子が落ちてきているように映りました。ライバルたちも決して万全の状態ではないようです。

あとから見返した船橋競馬のYouTubeチャンネル番組でも、競馬エイトの佐藤ゆきあきさんがルリモハリモを本命に推し、単勝を買っていましたが、彼の予想の意図は間違っていなかったと思います(彼は競馬記者として馬を見る目があり、予想屋としても優秀です)。親バカ目線ではなく、バイラノーチェとスターオブフェザーが外枠なのに対し、ルリモハリモは絶好の4番枠。スタートさえ互角であれば、テンの速いルリモハリモが最も前目につけられて、そのまま押し切れる世界線はたしかにあったのです。ただひとつ、佐藤ゆきあきさんが見落としていたのは、ルリモハリモが前走でゲートに顔をぶつけて飛び出したことです。これはレース映像だけを見て予想しても(カットされていて)分からない部分です。

ルリモハリモは返し馬もいつもどおりで、ここまで順調に来ていました。ところが、ファンファーレが鳴り、各馬がゲート入りを始め、ルリモハリモの順番が回ってきたとき、ゲート入りを嫌がる素振りを見せたのです。「やっぱりか」と僕は心の声が漏れてしまいました。ルリモハリモは前走で痛い思いをしたことを覚えているのです。

自分から飛び出して、勝手に顔をぶつけてゲートをこじ開けたのに、ルリモハリモの中では痛い思いをした嫌な場所であると認識しているはずです。また同じことが起こるのではないかと考えているのです。馬って賢いですよね。

厩務員さんが引っ張っても、所騎手が尻尾を持って入れようとしても、ルリモハリモは頑として立ち止まったまま。ここでゲート裏にいる職員の方が長い鞭を一発、ルリモハリモのお尻に入れたのが見えました。それに対し、ルリモハリモは後ろ肢を蹴り上げて怒りを示しています。こんなところにも、ルリモハリモのプライドの高さが見て取れます。

かつて能力試験の際に、所騎手が「納得しないと動いてくれない面はあります」と言っていたように、本来であればルリモハリモが納得してからゲートに入るのを待つことができれば良かったのですが、レース本番はそうした予断を許しません。長鞭で脅されて力ずくでゲートに入れられたルリモハリモは、プチパニックを起こし、身体全身に怒りが満ちていたことでしょう。

そんな状態でスタートが切られてしまいました。競走馬はゲート内でグッと体を沈めた体勢になることで上手に飛び出すことができるため、突っ立った体勢からでは上に伸び上がってしまいます。全身に力を入れて緊張して立ち尽くすルリモハリモを落ち着かせ、体勢を沈める前にスタートを切られてしまい、所騎手も成す術がなかったのではないでしょうか。断然の1番人気であれば、スターターも体勢が整うまで待ってくれたかもしれませんが、4番人気の馬に合わせてくれるはずもありません。

ルリモハリモは立ち上がるようにしてゲートを出て、そこからスピードに乗るまでに時間を要してしまいました。好スタート、好ダッシュを決めたここ2戦の姿は見る影もありません。しかもこうして馬群の後ろから行く形は初めてなので、馬も慌てて、バカついてフラフラと走っています。所騎手は何とかしてルリモハリモの体勢を整えつつ、外に出してコーナーを回り、少しでも前の馬たちとの差を詰めようとしますが、一度崩れたリズムを立て直すのは容易ではありません。

向こう正面で少し落ち着き、レースの流れに乗り始めましたが、時すでに遅し。先頭を走るバイラノーチェとそれをマークするスターオブフェザーは最終コーナーを回り始めています。絶望的な差がついてしまい、勝利を諦めた僕は、ルリモハリモがどこまで脚を伸ばしてくるかだけを見守ることにしました。

大外を通って追い上げてくるルリモハリモは、最後まで走り切ってゴール。何とか5着を死守してくれたようです。馬主にとっての5着と6着は、賞金が出る・出ないの大きな差があるので、生まれて初めて6着じゃなくて5着で嬉しいという気持ちも味わわせてもらいました。

でも実際は最悪の気分でした。今回のレースに臨むにあたって、最高のパターンと最悪のパターンが想定できましたが、僕が想定しうる限りにおいて最悪のパターンが現実になってしまったからです。前走のことを覚えていてゲートを嫌がる→ゲートで暴れて出遅れる→後方からのレースになる→届かないで負ける。あえて言うならば、ゲート内で暴れることはありませんでしたし、最後まで頑張って走って5着を確保してくれた点は救いがありました。所騎手が怪我をしたり、1円も賞金を持って帰れなかったりするよりはマシでした。

ちなみに、クラーベセクレタ・メモリアルに選ばれて出走すると、全馬の馬主に70万円、調教師は2万円、調教補佐・騎手・厩務員に1万円が奨励金として付与されます。山田厩務員や所騎手にもお小遣い程度は入ることは嬉しいのですが、彼らも僕も勝ちたかったのです。勝算はあっただけに、誰もがそれぞれに悔しい思いをしていることは間違いありません。

ルリモハリモから降りた所騎手が、「申し訳ないです」と山田厩務員に謝っていましたが、所騎手だって毎朝ルリモハリモの背に跨って、調教をつけてくれているのですから悔しいはずです。競馬のレースは1頭しか勝つことができず、それ以外の馬たちはいつも悔しい思いをすることになるのですが、今回に限っては、ルリモハリモの良さが全く発揮できなかったという悔しさが大きいです。

調教の動きを見ても、レースぶりを見ても、ルリモハリモはビュッと切れるタイプではないことが分かってきました。ダッシュ力を生かして好位置を進み、スピードを持続させて押し切るタイプの馬です。ニューイヤーズデイ産駒にはそうしたタイプが多いのですが、ルリモハリモはまさに典型的なニューイヤーズデイ産駒ですね。今回は後ろから5着に突っ込んできたように見えますが、前に行っていたとしても使える脚は同じです。むしろ、前半でリズムを崩してしまい、向こう正面でも追い上げに脚を使い、さらに最終コーナーでは大外を回す距離ロスがあったことを考えると、スムーズにレースの流れに乗れていれば脚が溜まって、もっと良い脚を使えていたかもしれません。後ろから行ったから伸びるタイプでは全くなく、前に付けてこそ持ち味が生きるタイプということです。自分の力を発揮して負けたのなら納得なのですが、ルリモハリモの力を発揮できなかったことに、僕たちはがっかりしました。

さらに深掘りすると、偶発的な出遅れやアクシデントによって今回のような競馬になったのなら、次こそはと気持ちを切り替えれば済むのですが、ゲートを嫌がる理由が分かっていて、それはルリモハリモの内面のことであるゆえに、そこが解消されないと次回も同じようなことが起こる確率が高いことが僕の心に影を落とします。ただ単に出遅れて負けたということではなく、根深い問題が横たわっているのです。

勝ったのはベンチマークしていたバイラノーチェでした。スタート前はあれだけ入れ込んでクルクル回っていたにもかかわらず、無難にスタートを切り、先頭に立ってそのまま押し切りました。結果としては対照的な2頭ですが、何が違うのでしょうか。全てが違うと言われたらそうかもしれませんが、僕にはそうは思えないのです。ほんの僅かな差によって勝敗が分かれたようにしか思えないのです。

井岡弘樹やガッツ石松など6人のチャンピオンを誕生させたボクシングの名トレーナー、エディ・タウンゼントは、人差し指と親指を近づけて、チャンピオンとそれ以外のボクサーの違いは「これだけよ。ほんとうにこれだけの差よ。わかる?」と言いました。1年半前までは同じ資質を秘めた個体が、それぞれ違った道を歩み、異なる環境や人間を通り過ぎてきた結果、レースにおけるほんとうにこれだけの差によって勝ち負けが分かれているのです。

失意の中、僕はチーム福ちゃんの皆さんと横断幕を取り外し、お決まりのコースであるサイゼリヤに行きました。今日はさすがに18時を回って、お腹も空いていたので、たまねぎのズッパだけではなく、ミラノ風ドリアとガーリックフォッカチオを注文しました。そこにいる誰もが「最後の脚は良かった」「頑張って走っていた」となぐさめてくれました。僕とは異なる視点からの励ましに、いつも助けられます。僕ひとりで来て帰っていたら、最悪な1日で終わってしまいます。

彼女たちと話していて思うのは、馬という動物が好きということ。僕も最近になって馬という動物が好きになり、気持ちは理解できるようになったのですが、馬券から入り、競馬の予想だけをしていた頃には(分かったふりをしつつも)理解できていなかった心境でした。彼女たちは純粋に馬が好きなのです。身を削ってでも、馬のために何かしたいと本気で願っています。そこには何の打算もないのです。

自宅に戻ってから、僕はルリモハリモの母ダートムーアのレースを見返してみました。ダートムーアも若駒の頃は、ゲートをなかなか上手く出られず、後手を踏んで負けてしまったレースがいくつかあったと記憶していたからです。その視点で見てみると、実際は若駒の頃どころか4歳夏ぐらいまでは、ゲートから上手く出られずに立ち遅れているケースが散見されます。

ですが、当時主戦の川田将雅騎手だけは、多少スタートが悪くても、第1コーナーまでの間にリカバリーをして好位置に戻すことができていました。だからこそ、川田騎手で3勝を挙げることができているという事実にも気づかされました。川田騎手が上手に乗ってくれたから、ダートムーアは力を発揮することができていたのです。そう考えると、川田騎手は当時26歳でしたが、その頃からすでに腕達者なジョッキーだったということですね。

ルリモハリモの出遅れは、前走でゲートを飛び出して顔をぶつけたことに起因しつつ、母ダートムーアからの遺伝という長いスパンの伏線が利いていることになります。狭いところが嫌だったり、これからレースで苦しい思いをするのが分かっているからこそゲートに入りたがらない賢さだったり、そうしたところでも母子は似るということでしょうか。ということはつまり、福ちゃんもゲートを嫌がるようになり、出遅れや立ち遅れをして──という未来がはっきりと見えてきます。

Photo by:ヤヨイ

(次回へ続く→)

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