[大狩部牧場代表・下村優樹ブログ]愛すべき繁殖牝馬「ハナブショウ」~大狩部だより(第5回)~

みなさん、こんにちは。

今週はセプテンバーセールです。このブログが公開される頃にはすでに弊社の上場馬2頭が無事に落札されていることを祈っております。前回、前々回と競走馬の売買についての私の考えをお話しさせていただきました。ちょっと真面目な話だったので、今回はちょっとくだけた、なんて言うとあの繁殖牝馬に怒られそうですが、大狩部牧場の個性派を代表してハナブショウのお話をお届けしようと思っております。

馬房でくつろぐハナブショウとハナブショウ2026(父パールシークレット)

今年は真珠君との間の子を絶賛子育て中のハナさんは第3グループの放牧地におります。私、正直言いまして、第3グループのYouTube撮影は細心の注意を払って行います。まず放牧地に入って最初に確認するのがハナさんの位置です。iPhoneを構えて探していると、だいたい目が合います(笑)。決して見つめあうわけではありません。ハナさんの眼光が鋭く、そんな空気にはなりません。カメラを構えないと、そこまでではないんですが、どうも私がiPhoneをもって放牧地に入るのが気に入らないみたいです。いつも眼で「撮るな」と訴えてきます(笑)。困ったことにですね、真珠君の当歳は父の性格に似たみたいで、とても賢くて人懐っこいんです。だから私を放牧地で見つけると、近寄ってきます。当然、ハナさんは許してくれません。ロックオンして私に向かってきます。先日もチビちゃんを撮影していたときに後ろからバーッと走ってきて、私の目の前でくるっと回って蹴ってきました。なにせ中央で2勝した牝馬ですからね。迫力が違いますし、とにかく動きが速いです。

あるときサンシャインパドックに入ったら、ハナさんはわざわざ膝を折ってですよ、私に向かって頭突きを入れようとしたこともありました。ほかの繁殖牝馬は決してそんなことはしません。つまり、ハナさんの個性です。でも、気が荒いとかイライラするようなところはありません。私が思うにハナさんは敏感なんです。色々と起こることにアンテナを張っている馬で、それに無意識というか反射的に反応するような感じですね。自分はそんなつもりはないんだけど、一瞬やってしまって、目の前で人間が慌てたりすると、それをきょとんと見ているぐらいです。ふと我に返るみたいですね。あれ、自分どうしちゃったんだろうみたいな(笑)。まるで二面性を持っているようです。なにかの拍子に意識が飛ぶのか、もう一頭の別の自分が乗り移るのか。そこは謎ですが、行動したあとは周りの変化を「えっ、なに?あたし、なんかした?」みたいな感じで見ています。

馬房で耳を絞るハナブショウ。最近、丸くなったのか目がやさしい(笑)

実は私とハナさんとの関係は大狩部牧場に来る前からなので、非常に長いんです。ハナさんのオーナー様とは私が小学校高学年のころに知り合いました。たまたまご縁があって、お話させていただいたんですけど、馬好きの下村少年はそのとき、オーナー様に調教師になりたいって言いまして、それで「君、面白いね」みたいな感じで、そこから可愛がっていただきました。私が馬の世界に入ってからも微笑ましく見守っていただきまして、オーナー様の配合のアドバイザーじゃないですけど、配合について意見を求められて答えたりしていました。あるとき、「ヘニーヒューズを交配したいけど、どの繁殖がいい?」と意見を求められまして、私が選んだのがイチノヤジョウでした。そうして生まれたのがハナさんです。中央で2勝してくれてオーナー様も喜んでくれました。余談ですが、イチノヤジョウはハナさんよりもっと気持ちが強くて現役時代を管理した調教師の相沢先生も相当大変だったみたいです。

ハナさんが繁殖入りしたときにもどの種牡馬がいいかなって言われたんで、私はエスポワールシチーを選びました。それがハグレジョーです。ただ、ハナさんはハグレジョーを生んだときに自分の子どもだと認識できませんでした。こういったケースは実はほかにもあって、何頭出産しても子育てしないこともあります。特に初仔は誰からも子育ての仕方を教わりませんし、いきなり目の前に自分の知らない存在が現れて、パニックになって嚙みついたりすることがあります。ハナブショウも似たような状況で、その時いた牧場さんもお手上げ状態になっていました。その牧場さんにとっては、体力的に世話をするのは難しいからとオーナー様に別の牧場に移させてほしいとお願いしたそうです。ちょうどそのころ、私は大狩部牧場の代表になっていまして、オーナー様から「子育てしない馬を預かってくれなんて君にしか頼めない」と言われました。私も大変お世話になりましたし、応援もしていただいたんで、これもご縁と思って引き受けることにしました。そういうわけでハグレジョーは生後すぐママから離され、乳母に育てられたので、ハグレジョーという名前がついたわけです。

弊社にきたハナさんにチュウワウィザードを交配しました。また育児拒否を起こさないように注意深く進めていきまして、出産の約1カ月前から職員たちがハナさんの体の色々なところを触って慣れさせました。チビちゃんは生後すぐ、ママの体を舐めます。おっぱいを探していろいろなところペロペロするんですね。ですから、ハナさんには自分以外の存在に体を触られても平気になるよう訓練しました。普段、人間に触られないようなところ、それこそおっぱいも触りました。職員も命がけでした。なにせあのハナさんですから。瞬間的に蹴りが飛んでくることもあります。それでも根気よくハナさんの体を触り続けて、生まれてきたチビちゃんが舐めても拒否しないように教えていったんです。

無事に出産すると今度は私たち人間が出産後すぐに馬房に入れないほど、わが子を完全ガードするようになりました。今度はこっちを攻撃してきました。もう毎日溺愛です。なので2番仔はクレイジーラブと名づけられました。ここまで極端に変わるのはなかなかありません。ちょっとハグレジョーに謝ってほしいぐらいです(笑)。ハグレジョーの次がクレイジーラブ。まさにハナさんの子ですね。ハナさんの子とは離乳後でないと、私、イチャイチャできないんで、今年のチビちゃんも今から離乳を楽しみにしています。

ハナさんは私がルーサンを持っている時が一番かわいらしい。瞳を輝かせて「お願い、ちょうだい」みたいな。で、私の手からルーサンが離れた瞬間に耳を絞ります(笑)。クレイジーラブの子育て中はとにかく収牧したくても帰ってきませんでした。収牧拒否です。逃げ回って2時間ぐらいかかったときもありました。職員がえん麦の入ったバケツを持って近寄っても、目の前まで来てまたバーッと走っていって。クレイジーラブはそんなママについていきますから、それも必死になって。おかげでママに鍛えられて、すごい体力が身につきました。

でも、最近のハナさんはあれでも丸くなりました。子育ても3回目ですし、弊社に来た頃のようなギラギラ感はかなり薄まってきましたね。ブログ用に写真撮影しようと馬房にいきましたら、なんとハナさん、耳を絞らず、私に触らせてくれました。はじめて甘えてきたんです。ちょっと信じられません。逆に腰が抜けそうになりました(笑)。私が「世の中に発信されるからね」とハナさんに伝えたので、自分が特集されることを意識したんじゃないでしょうか。「やればできるじゃん」って感じです。そうであっても、職員たちは絶対にハナさんに背中を見せません。いつガブっといかれるかわかりませんから。ちなみに妹のカブラヤジョウもハナさんに似ています。イチノヤジョウがすごかったらしいので、この牝系の特徴かもしれませんね。ですが、競走馬は強い気持ちがないといけません。その意味ではハナさんもカブラヤジョウもいい繁殖牝馬になってくれそうですね。ちょっと掴めないところはありますが、その分、面白いですし、やっぱり私にとっては愛すべき繁殖牝馬です。

まさかの顔を触らせてくれるハナさん。自分のことが世の中に広く発信されることをわかっているかのようです。

いつものことですが、長くなってしまいましたので、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。次回も繁殖牝馬の個性についてお話ししたいと思っております。

みなさん、素晴らしい一日をお過ごしください。

それでは、また。

(取材・構成/勝木 淳)

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