[対談]キタサンブラックは種牡馬でも覇権を握れるか!? 2021年産駒デビュー・キタサンブラックについて語る──治郎丸敬之×緒方きしん

2016年・2017年の年度代表であり、顕彰馬にも選出された名馬・キタサンブラック。
父ブラックタイド・母父サクラバクシンオーという一見地味とも言える血統で、世界的良血馬を次々に撃破した。アイドルホースとして注目を集めたのは記憶に新しい。オーナー・北島三郎氏の歌声が競馬場に鳴り響く様子は、競馬ファンだけではなく日本中で話題となった。
そんなキタサンブラックは、種牡馬としても活躍するのだろうか?
現役時代を振り返りつつ、新種牡馬キタサンブラックのポテンシャルについて考えていく。

典型的なステイヤーとしてファンを魅了した現役時代

緒方:さて、いよいよ顕彰馬・キタサンブラックの産駒デビューが近づいてきました。競馬ファン以外にも名前が伝わるレベルの馬ですから、多くの人たちからの注目が集まることでしょう。

治郎丸:楽しみだね! ただ、種牡馬としてのキタサンブラックに関して言えば、多くの生産者は産駒デビューまで様子見という印象を受ける。

緒方:種付け料がそれなりに高額なのもあってか、思っていたよりも種付け数が伸びませんでしたね。ロマンのある種牡馬ではあると思うのですが……。ただ、現役時代にもファンの多かった超名馬ですから、その名に恥じぬ活躍を期待したいところではあります。ディープ・オルフェ・カナロアと、ここ最近の顕彰馬に選出された牡馬はみんなG1馬を複数輩出していますから。


治郎丸:現役時代についてだけど、僕が彼の強さに気がついたのは現役後半の方になってからなんだよね。例えばスプリングS制覇の時とかは、まだまだ懐疑的だった。最近では珍しいタイプというか、最初の数戦で強さがわからないタイプだったように思うな。オルフェーヴルとかみたいに気性がネックで力を出し切れていなかったというより、毎日の生活や調教で徐々に力をつけていったパターン。だからはじめは「そこそこの馬かなぁ」と思っていたし、ダービー負けても「まぁそうだろうな」くらいに思っていた。

緒方:オッズでもなかなか1番人気に推されなかったように、多くの競馬ファンは彼の実力を見抜けていなかったんだと思いますよ。私もその1人で、初めて1番人気になった4歳京都大賞典あたりまでは全然わかっていませんでした。誰よりも早くに強さを見抜けていたらカッコよかったんですが、残念ながらそうはいきませんでした(笑)

治郎丸:菊花賞や有馬記念を見た時でもそこまでピンときていなかった。今になって振り返ると超晩成だったんだよね。だから、まだまだ未熟な段階であれだけの競馬が出来ていたというのは、あとから考えてみると衝撃的なレベル。


緒方:そうなんですよね、皐月賞とかから結構強い競馬をしてますし。菊花賞については、僕は完全に世代のせいにしていましたよ(笑) 母父サクラバクシンオーの馬に菊花賞を勝たれてしまった世代、と。ドゥラメンテが好きだったのもあって、ドゥラメンテが帰ってきたら一強体制になるな……と思っていました。本当に見る目がなかったです。

治郎丸:馬体的な観点からいけば、手脚は長いし典型的なステイヤーの体型だったよね。でもこの情報化時代だから、血統的な不安要素は無視できないほど目に入ってくるし、なかなかフラットな気持ちで馬体を見るのが難しかった……。短距離の早熟馬よりも好みのタイプなんだけど、そういう経緯による悔しさもあってか、どうにも「大ファン」にはなれなかったなぁ(笑)

緒方:さて、2人の懺悔的な言い訳はここまでにしておいて(笑) キタサンブラックの種牡馬としての可能性を考えていきましょう!

治郎丸敬之「(現1歳馬は)キタサンブラックらしさを感じさせる馬体の馬が多い」

治郎丸:今年の1歳馬を見てみると、キタサンブラックらしさを感じさせる馬体の馬が多いね。ディープとは違う、自分と似たような産駒を出してくるタイプ。馬体は薄くて、首が長くて、手足も長くて。現段階では「ひょろっとしている」という印象の馬が、キタサンブラックに似てて良いと思う。

緒方:いわゆる晩成ステイヤーが多いってことですかね? 若駒のうちから成長後の姿を想像して評価を決めるというのは、なかなか難易度が高そうです。さらには『順調に成長する』という前提条件を満たすだけでも、かなりのハードルと呼べるでしょう。


治郎丸:キタサンブラックも、最後の最後まで売れなかったらしいよ。もともとはひょろひょろで頼りないタイプで、馬を見に来た人からは「スピードがなさそう」「仕上がりも遅そう」と、なかなか良い評価を得られなかった。売れ残ったタイミングで北島三郎オーナーと出会ったわけだけど。

緒方:なるほど。普段の感覚で静観していると、キタサンブラックをスルーしてしまった馬主の方々と同じ目にあう、と(笑)

治郎丸:そういうこと(笑) 当たり外れはあるだろうし、一か八かという種牡馬になっていくんじゃないかなぁ。

緒方:アベレージヒッターというよりも、三振・三振・場外ホームランというタイプですか。まぁ、確かにそんなイメージはあります。良血馬との配合も結構ありますから、なるべくホームランを量産してほしいところですが。

治郎丸:結論を言ってしまうけど、キタサンブラック産駒は日本競馬界の「穴」を埋めることで活躍すると思うんだよね!

緒方:日本競馬界の「穴」ですか?

治郎丸:そう、穴。盲点と言い換えても良いけど。例えばの話になるけど、オーストラリアって全体的な傾向として、2歳になった途端にデビューさせたりするよね。1200のG1がバンバンあってさ。だから2歳から活躍できるスプリント血統が栄えている。そこに日本から古馬・中距離・やや晩成といったタイプの馬が行くとポンと勝てたりする。そういう風に、ダービーを頂点に据えた現在の日本競馬が作り出した「穴」を、キタサンブラック産駒は狙えるかもしれないと思っている。具体的に言えば、菊花賞以降の中長距離G1は総なめという状況もありうる。


緒方:なるほど……。自分は逆に、隔世遺伝でサクラバクシンオーっぽい馬が出てきてくれたら面白いな、と思っていました。配合は中距離以上のイメージが強そうですけど。でも古馬の中長距離G1を総なめする種牡馬が出てくると相当面白そうですね。天皇賞・春のレベルもあがり、権威を取り戻せるかもしれません。

緒方きしん「米国血統との配合でバランスの良さを狙って欲しい」

治郎丸:種付け料が高いという話になったけど、日高の繁殖につけて欲しい、そこで活躍馬を出して欲しいという気持ちはあるな。生産者にとっては、売れにくい種牡馬かもしれないけど……。

緒方:父の成長曲線をイメージすると、なかなか個人馬主さんには手は出しにくいというか、リスクは含むタイプにはなるかもしれません。日高の繁殖との配合で活躍馬が出たらロマンですが、まずはどんな背景の馬だろうが重賞を戦える馬を出さないといけないはずです。

治郎丸:そういう意味では社台グループのバックアップがあるのは良かったと思う。実際、ノーザンFの名繁殖・クリソプレーズとの仔は、めちゃくちゃよかった。キタサンブラックの生き写し。マリアライト・クリソライトといった兄姉に似てないね。

緒方:マッチョな一族じゃないですか。そこで自身の生き写しを出せるというのは、かなり我の強い種牡馬のようですね。良血馬との間に雰囲気のある仔を出せるというのは心強いですが。

治郎丸:岡部騎手がビワハヤヒデに関して口にした「生き残ることが大事」というセリフが大好き。あのレベルになると能力は大差ないから、生き残ればチャンスが回ってくる。ドゥラメンテが宝塚記念で引退して、リアルスティールも満足に使えていなかった中で、キタサンブラックは生き残った。ステイヤーが生き残るためには「花開くまでに生き残ること」。現場では、キタサンブラック産駒は肢勢が良いと言われているらしい。怪我をしにくそうだし、しっかり負荷をかけられる。そういう意味では「生き残れる」と思っている。


緒方:才能が開花するまで応援する、一発大物系の種牡馬ということでしたら、400口のクラブと相性が良いかもしれませんね。似ているタイプが多いというのも含めて、愛情豊かにファンに応援して欲しいという気持ちが強いです。

治郎丸:確かに400口向けかもね! デビュー前だから当たり前なんだけど、未知の魅力がある種牡馬だと思う。コンスタントに走り続けて稼ぎ続けるような馬も出てくると思うから、そういう仔は馬主孝行と言えるだろうな。牝馬の質にそこまで依存しないと思っているから、ステイゴールド系種牡馬だと思っているよ。一度社台から日高に行き、また社台に呼ばれるような流れを期待している(笑)

緒方:なるほど(笑) 僕はスペシャルウィーク系の種牡馬と思っています。現役時代の雑草魂なイメージとは違い、結構繁殖の質が関係してくるタイプだと思うんですよね。アメリカンな早熟血統との配合でバランスの良さを狙って欲しいです。あとは牝馬が活躍するんじゃないかなぁと。そこも含めて『スペシャルウィーク系』と思っています。どちらにせよ、応援しがいのある種牡馬になりそうです!

治郎丸:あとは産駒のデビューを待つばかりだね! クラシック戦線に名乗りをあげる馬が出てくるのかも含めて、定期的に産駒の状況はチェックしていきたいな!

写真:Horse Memorys

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