サイアーラインや近親交配を中心に語られることが多い血統論だが、牝系を通じて繋がるDNAはサラブレッドの遺伝を語る上で非常に重要な要素を占める。
この連載では日本で繁栄している牝系を活躍馬とともに紹介し、その魅力を伝えていく。
今回取り上げるのは、ディープブリランテなどを輩出したバブルプロスペクターの牝系だ。
長く良い脚とパワーが持ち味
代表馬
・ザッツザプレンティ
・ディープブリランテ
社台ファームで繋養されていたバブルプロスペクターを牝祖とした一族。不受胎も多く日本で生まれた産駒数自体は少ないのだが、バブルプロスペクター輸入前にフランスで産まれた繁殖たちも日本に輸入された。
直仔のザッツザプレンティ(父ダンスインザダーク)、ひ孫のディープブリランテ(父ディープインパクト)がクラシックを制覇し牝系の地位を確固たるものに。最近ではNZT勝ちのショウナンアチーヴやキーンランドC勝ちのエポワスが出ていて40年近く活力を維持している。
バブルプロスペクターのファミリーはその後つけられた種牡馬によって特徴を変えてはいるのだが、Lyphardの影響が強く粘り強さを持った馬が多いのが特徴だ。またスタミナ、芝適性の高さも持ち合わせていて芝の中長距離が主戦場となっている。仕上がりも早いのでクラシックに間に合うというのもファミリーの強みだろう。
ショウナンアチーヴ(父ショウナンカンプ)は父の影響からスプリント~マイルで活躍したが本質的な競馬の質は持続性能と粘り強さを活かした競馬が多かったし、ザッツザプレンティ(父ダンスインザダーク)の勝った菊花賞なんかもバックストレッチで一気に前に進出してそのまま押し切るという競馬だった。
勢力を伸ばす4つの分岐
繁殖として活力を継続し勢力を伸ばした産駒はFlaponny(父Vernon Castle)、バブルウイングス(父In the Wings)、バブルドリーム(父Akarad)、マニックサンデー(父サンデーサイレンス)の4頭。それぞれの特徴や活躍馬を紹介していこう。
①Flaponny
まず1頭目はFlaponny。
こちらは日本に輸入された繁殖ではないのであまり聞きなれないかもしれないが、産駒のFlip Flop(父Zieten)がイエローリボンS(G1・芝10F)で2着の実績があり、その産駒Qurbaan(父Speightstown)はバーナード・バルークH(G2・芝8.5F)連覇やG1でも上位に入る実績を残している。
この枝はQurbaanに至るまでZieten→Speightstownとスピード抜群で前向きな種牡馬がつけられてきたので、芝適性や粘り強さはそのままにやや距離適性は短めにシフトしつつある。
②バブルウイングス
2頭目がバブルウイングス。
バブルウイングスの産駒はさらに2頭に分かれて広がっていてショウナンパントル(父サンデーサイレンス)が阪神JFを制覇、半姉ウイングオブラック(父ブライアンズタイム)は競走馬としての実績こそないが、東スポ2歳S3着のマイネルラフレシア(父ジャングルポケット)が孫にいる。
マイネルラフレシアはバブルウイングスにダンスインザダーク→ジャングルポケットという組み合わせだから持続力は抜群、大箱中距離が得意の舞台となるのは必然だったのかもしれない。
もう一頭のショウナンパントルはと言うとサンデーサイレンス産駒らしいスピードを持ち合わせていて、この牝系では珍しく瞬発力があった。
とはいえその産駒であるショウナンアチーヴ(父ショウナンカンプ)は父から更にスピードを受け継いで、粘り強い競馬を信条としたわけだから結局のところ本質は変わっていない。朝日杯FS2着やNZT勝ちの実績があるがいずれも道中動いてそのまま押し切りという競馬スタイルはまさにバブルプロスペクター牝系といったところだろう。
③バブルドリーム
3頭目はバブルドリーム。
こちらはディープブリランテ(父ディープインパクト)が出た分岐なのだが、直仔ではラヴアンドバブルズ(父Loup Sauvage)がクロエ賞(G3・芝9F)を勝利した程度。
牝系の活躍もあってかパカパカファームで繋養されるようになったが、直仔は中央で勝てるかどうかといった具合の戦績だったわけだから、その他の活躍と比較すれば物足りないのは事実だろう。
潮目が変わったのはラヴアンドバブルズが繁殖入りしてから。まず手始めに産駒のバブルバブル(父ディープインパクト)がフラワーCで2着、その全弟ディープブリランテが日本ダービー制覇を成し遂げた。
そもそもラヴアンドバブルズは父がLoup SauvageでRivermanやNureyevなど重厚な血を重ね合わせた欧州の中距離馬、母父のAkaradもサンクルー大賞典(G1・芝2500m)勝ちのあるスタミナタイプだ。
バブルプロスペクター牝系の中でも特にパワーや持続性能に振り切った配合で日本競馬で走るにはスピードが足りない。
そこに抜擢されたのが大種牡馬ディープインパクト。思い返せばハブルバブルもディープブリランテもディープインパクト産駒としては切れないタイプだったし、道悪や時計のかかる馬場は得意。加えて持続性能は抜群だったわけだからディープインパクトだから成功した可能性が高いのではないだろうか。
④マニックサンデー
4頭目がマニックサンデー。
マニックサンデー自身がサンスポ4歳牝馬特別(G2・芝2000)を勝利している実績馬なのだがこちらも戦績を見てわかる通り時計のかかる馬場で無類の強さを発揮していた。
マニックサンデー自身は父がサンデーサイレンスだからザッツザプレンティとは3/4同血の間柄になり最も日本適性の高い種牡馬が血統表に並んだ繁殖だったと言えるだろう。
マニックサンデーの産駒たちは中央複数勝利級の馬をコンスタントに出しているのでそれだけで優秀な繁殖であることは間違いないが、キーンランドC勝ちのエポワス(父ファルブラヴ)が代表産駒。
ファルブラヴ自身は芝中距離で活躍した馬だが産駒は短距離に適性を持つ馬も多く、エポワスはそこが出た形。
レースの内容に関しては牝系のそれを受け継いでおり、先行して粘りこむか道中から仕掛けていくのが得意のパターンだった。
これからの日本で求められる特性を持つファミリー
バブルプロスペクターの直仔の牡馬たちにも活躍馬がいるので見ておこう。
ウインシュナイト(父サンデーサイレンス)は小倉大賞典2着、ザッツザプレンティ(父ダンスインザダーク)は菊花賞勝ちのほかJC2着、ダービー3着などの実績がありバブルプロスペクターは直仔たちも活躍した優秀な繁殖牝馬だった。
これまで何度も記してきたようにこの一族の長所は持続性能やパワーだ。ウインシュナイトのベストパフォーマンスだった小倉大賞典も道中早めに動いて捲り上げる形。ザッツザプレンティの菊花賞やダービーなんかもそうだ。
現在日本の芝路線ではスピードの高さを有する一族が繁栄を見せている。バブルプロスペクター牝系のようにパワーとスタミナ豊富な牝系が芝を中心に活力を見せ続けているのは貴重な光景と言えるだろう。現在の種牡馬のラインナップを見ても、バブルプロスペクター牝系の馬たちの特徴を欲している馬は多く今後も活躍が期待できるだろう。
写真:Horse Memorys